小林啓倫のエマージング・テクノロジー論考

2025年、AIエージェント元年? 企業内で安全に使うには 「AIエージェント・ガバナンス」を考える(3/4 ページ)

 そこで重要なのは「どこにどのようなエージェントが登場しているか」「そうしたエージェント同士がどのように相互作用しているか」「エージェント以外の外部サービスとのやりとりはどうか」を俯瞰する視点だ。エージェント間のやりとりを中央で一元的に監視できるフレームワークを整えたり、外部のプロバイダーにもエージェントの動きを報告する仕組みを用意してもらったりすると、問題の発生源を早期に特定しやすくなる。

 とはいえ、問題が発生する可能性をゼロにすることはできないし、最終的に損害や不具合が起きた場合、どこかが責任を負わねばならない。開発元、システムを導入した企業、実際に運用する部署や担当者の間で、責任の所在やリスクの範囲を明確にしておく必要がある。契約書や利用規約だけでなく、保険や保証制度なども活用し、大きなダメージを最小限に抑える仕組みを作ることが望ましい。

 最後は、長期的なモニタリング態勢の確立だ。AI同様、AIエージェントも導入して終わりではなく、運用を続けるうちに環境変化やデータ変化にさらされる。そのため、定期的にその挙動を検証し、バイアスや精度低下が起きていないかをチェックする仕組みが欠かせない。

 特にサブエージェントを自動生成するタイプのシステムの場合、定期的な監査を行い、「どのくらいのサブエージェントが動いているのか」「その行動範囲は想定内か」を確認することが大切だ。

AIエージェント・ガバナンスを実装する上でのテクニック

 それでは、これまで述べてきたポイントを実際に企業内で実装する際に、どのような点に注意すべきだろうか。いくつかアドバイスを示してみたい。

 初めに、これはどんな先端技術にもいえることだが、スモールスタートと段階的導入を検討すべきだ。最初からあらゆる業務にAIエージェントを導入してしまうのはリスクが高い。まずは小さな領域、リスクが比較的軽微な業務から試験的に導入し、ログの取り方や承認フローの設計、トラブル発生時の対処方法などのノウハウを社内で共有し、そこからガバナンスを整備していくわけである。

 例を挙げると、既に導入済みの顧客向けAIチャットbotの一部をAIエージェント化することで、既存のガバナンス体制を利用しつつ、エージェントがどの段階で人間の判断を仰ぐべきかを把握するといった対応が考えられる。そうすることで、リスクを最小限に抑えながら、実務に即したガバナンスの在り方を検討できるだろう。

 2つ目は、組織・業界横断型での検討と整備の推進だ。AIガバナンスにおいても、具体化はIT部門だけで完結するものではなかったが、AIエージェントではその傾向がさらに顕著になるだろう。

 法務部門は契約やコンプライアンスの観点を、情報セキュリティ部門は脆弱性対策や監視の観点を、人事は運用者の教育や倫理面の研修を担当するなど、それぞれが連携してガバナンスを形作る必要がある。企業の中に「AIエージェント管理委員会」のような横断チームを設け、定期的に運用状況を報告・協議できるようにすると、意見交換もスムーズになる。

 そうした取り組みはAIガバナンスにおいても行われてきたが、AIエージェントの場合、その範囲を社外にまで広げることが望ましい。特に「エコシステム」と呼ばれるような、特定のビジネスを実現する上で密接な関係を結んでいるパートナーとは、早い段階からAIエージェントの取り扱いについて協議を始めるべきだろう。

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小林啓倫のエマージング・テクノロジー論考

生成AIやメタバース、新たなサイバー攻撃など、テクノロジーの進化が止まらない。少しずつ生活の中に浸透し、その恩恵を預かれることもある一方、思いもよらない問題を生み出すこともある。このコーナーでは、さまざまな分野の新興技術「エマージング・テクノロジー」について、小林啓倫氏が解説する。

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