小林啓倫のエマージング・テクノロジー論考
「deep research」は“ニュースメディア離れ”を引き起こすか? 生成AIが変えるニュース読者の生活(1/3 ページ)
雨粒がサンルームに当たる音で、アーニャが目を覚ました。「おはよう、ルミ」と彼女はつぶやいた。「今日はどんなニュースがあるかしら?」
しばらくすると、AIアシスタントのルミがホログラフィックディスプレイに簡潔なニュース速報を表示しました。「おはよう、アーニャ。ガーディアン紙が報じているのは……」とルミが話し始め、トップ3のニュースを要約しました。気候協定の進展、地方選挙の最新情報、そしてダウンタウンに新しく設置されたアートインスタレーションです。各ニュースの要約は簡潔でしたが、より詳しく読むためのリンクが提供されていました。
「まず気候変動協定について」と、お茶を飲みながらアーニャが指示しました。ルミは、ガーディアンの過去の報道からその背景を説明し、短い説明ビデオまで提供しました。アーニャは一時停止しました。「ルミ、この協定に対する反対意見は?」
するとすぐに、ルミは他のニュースソースからの反対意見を提示し、そのバイアス評価をタグ付けしました。 その後、アーニャは追加の質問をし、その場で主張の事実確認を行い、ダイナミックでパーソナライズされたニュース体験を作り出しました。 従来の記事も依然として存在していましたが、アーニャはもはや延々と続くフィードをスクロールすることはほとんどありませんでした。 彼女は、カスタマイズされ、インタラクティブなニュースを手に入れたのです。
何かAIが書いた文章っぽいな、と感じた方は正解だ。これは後述するニュース記事を読み込ませた上で、ChatGPTに想像させた、近未来の朝におけるニュース消費の光景である(一部の体裁を整えただけで、ほぼそのままChatGPTの出力を使用している)。そこでは新聞やテレビはおろか、ニュースサイトやまとめサイトすら登場せず、AIエージェントが全てを完結させるという世界が描かれている。
リサーチ系AIエージェントが台頭 信頼を得るために必要なことは?
既にこれに近いことは、現在のテクノロジーでも実現可能だ。例えば2月25日の朝、ChatGPTのリサーチ用AIエージェントである「deep research」に対して「過去24時間以内に報じられた、AIの技術進展に関する重要なニュースをまとめて」と指示したところ、次のような結果が得られた。
「過去24時間」という指示があまり守られていないが(例えばGrok 3の発表は2月18日のことだ)、重要度という点ではまずます押さえるべきニュースが押さえられているといえるだろう。
もちろん冒頭の未来予想図にあったように、この中から気になるニュースを深掘りさせることもできる。例えば次の結果は、中国のAI開発企業であるSkywork AIの動画生成AIモデル「SkyReels V1」について、肯定・否定両方の意見をまとめてと指示してみた結果だ(大量の結果が出力されたため、否定意見の冒頭のみスクリーンショットしている)。
なるほど、高性能ではあるものの、それだけに高性能のハードウェアが必要で一般ユーザーにはハードルが高いようだ。また最先端とはいえ、まだまだ使い勝手は悪いらしい。
しかしこれらの意見をよく見てみると、その出典はほとんどがオンラインフォーラムのRedditであることが分かる。つまり一般の人々の意見にすぎないというわけだ。もちろんRedditにも専門的知識を持つ人物は多く、従来型のマスメディアが拾い切れていない最先端の話題までフォローするためには、こうしたユーザー参加型サイトが欠かせない。しかし、そこにある情報が玉石混交であることは否めないだろう。
リサーチ系のAIエージェントがより信頼できる存在になるために、それが参照するニュースソースも、信頼できる報道機関から提供されるものになってくれないだろうか――実は最近、そんな期待に応える動きがあった。それが冒頭で触れた「ChatGPTに読み込ませたあるニュース」である。
英Guardian紙がOpenAIと提携 ニュース消費に変化の兆し?
そのニュースとは、英Guardianが、米OpenAIと戦略的パートナーシップを提携したというものだ。特に注目されるのは、両社の間でコンテンツライセンスに関する契約も締結されたという点である。この契約により、Guardianのニュース報道とアーカイブがChatGPTに直接統合され、ChatGPTは同紙をニュースソースとした上で、会話の中で記事の要約や抜粋を提供するようになるという。
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小林啓倫のエマージング・テクノロジー論考
生成AIやメタバース、新たなサイバー攻撃など、テクノロジーの進化が止まらない。少しずつ生活の中に浸透し、その恩恵を預かれることもある一方、思いもよらない問題を生み出すこともある。このコーナーでは、さまざまな分野の新興技術「エマージング・テクノロジー」について、小林啓倫氏が解説する。
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