小林啓倫のエマージング・テクノロジー論考
いまさら聞けない「MCP」 AIエージェントを支える“AI界のUSB-C”とは? ビジネスへの影響を解説(3/3 ページ)
AIエージェント間の連携を容易にする「A2A」
次にA2Aについて考えてみよう。これは「Agent2Agent」の略で、Googleが4月に発表したプロトコルだ。簡単に言ってしまうと、A2Aは「さまざまな会社が作ったAIエージェント同士を、インターネット越しに安全につなぐための共通言語」である。既にSAPやSalesforceなど50社以上のパートナーが参加していて、製品版は25年後半に提供を開始する予定。
GoogleはA2Aを発表したアナウンスメントにおいて、次のような「エージェントの相互運用という新時代」を描いている。
エージェント型AIのメリットを最大限に享受するには、こういったエージェントがデータシステムやアプリケーションのサイロを超え、ダイナミックなマルチエージェントエコシステムで協調作業できることが重要です。異なるベンダーや異なるフレームワークで開発されたエージェントを相互運用できれば、自律性が高まり、生産性が倍増し、長期的なコストを削減できます。
A2Aの価値を、次のように説明している。
A2Aプロトコルは、さまざまなエンタープライズプラットフォームやアプリケーションでAIエージェントが相互通信し、情報を安全に交換して、アクションを協調動作できるようにします。A2Aフレームワークによって、AI エージェントがエンタープライズアプリケーション資産全体で動作できるようになります。これはお客様にとって大きな価値をもたらすものになるはずです。
また同じ文書の中で、A2Aは「Anthropic のモデルコンテキストプロトコル(MCP)を補完するオープンプロトコルで、エージェントに役立つツールやコンテキストを提供する」と宣言している。MCPとA2Aが組み合わされることで、さらなる可能性が開けるという見立てだ。
AIアプリやSaaS製品向けのソリューションを提供している米Silverhandは、同社のブログにおいて「MCPは垂直統合(アプリケーションとモデル間の連携)を提供し、A2Aは水平統合(エージェント間の連携)を提供する」と簡潔に表現している。MCPが「AIエージェントが外部のツールやデータにどのようにアクセスするか」を定義しているのに対し、A2Aは「エージェント同士がどのようにやりとりするか」を定義しているわけだ。
A2Aのユースケース
実際のユースケースで説明してみよう。ある社員が、社内で提供している汎用AIエージェントに対して「来月の海外出張の計画を参照して、航空券とホテルを予約し、関係者に通知して」と依頼したとする。このエージェントはこの依頼を達成するために、全てのタスクを自ら実行するのではなく、オーケストレーションエージェント(全体の調整役)となって行動する。
具体的に言うと、このエージェントはユーザーからの指示を複数のタスク(航空券の検索・予約、ホテルの検索・予約、社内システムへの出張申請など)に分割して、それぞれのタスクを遂行してくれる専門エージェントにタスクを投げる。
例えば「航空券の検索・予約」のタスクは、未来の旅行会社が開発した「航空券予約エージェント」に任せることができるだろう。この際の連携に使用されるのがA2Aプロトコルというわけだ。
この「航空券の検索・予約」のタスクを受け取った航空券予約エージェントは、依頼を完了するために外部システム(航空会社のAPI、旅行サイトのデータベースなど)にアクセスし、サブタスクを実行する必要がある。ここで使うのが前述のMCPで、航空券予約エージェントは同プロトコルに従い、航空券検索ツールを提供するMCPサーバを呼び出して、必要な情報を取得したり予約アクションを実行したりすることになる。
各専門エージェントは、MCPを使用してサブタスクを完了すると、その結果(予約確認、申請完了通知、送信済みメールの確認など)をA2Aプロトコルを通じてオーケストレーションエージェントに報告する。その際、成果物が「アーティファクト」として返される場合もある。今回の事例で例えるなら、出張の旅程表やホテル所在地の地図などが考えられるだろう。
このようにA2Aが存在することで、MCPによって高度な機能を備えたエージェント同士が連携し、より複雑なタスクを人手を介さずに完了することが可能になる。もちろんA2Aはまだ発表されたばかりであり、それが期待通りに機能するかどうかはこれからの話となるが、その可能性が見えてきたということだ。
企業に迫られるAI戦略の練り直し
MCPとA2Aの普及は、断片化されたAIの導入から企業が脱却し、異なるAIエージェントが安全かつ効率的に連携することで、より高度で自律的なマルチエージェントシステムを構築する基盤を提供することを意味する。これにより、ワークフローの自動化や開発コストの削減や、より強固なリスク統制を施したAIエコシステムの実現が可能になるだろう。
とはいえ多くの企業においては、ようやく社内で生成AIの利活用を進めるマスタープランが整ったという段階ではないだろうか。数年をめどに、ChatGPT型の対話AIを定着させる計画なのに、AIエージェント(しかも外部から提供されるものを含む)を複数連携させる将来像なんて……と思われたかもしれない。
確かに急激な方向転換は難しいし、このシナリオ通りに進むかどうかも現時点では未知数だ。とはいえ、MCPやA2Aといったプロトコルが整備され、技術面での準備が進んでいることも事実。運用側での準備不足が、再び数年単位での遅れにつながることのないよう、戦略の練り直しを視野に入れた議論を進めておきたい。
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小林啓倫のエマージング・テクノロジー論考
生成AIやメタバース、新たなサイバー攻撃など、テクノロジーの進化が止まらない。少しずつ生活の中に浸透し、その恩恵を預かれることもある一方、思いもよらない問題を生み出すこともある。このコーナーでは、さまざまな分野の新興技術「エマージング・テクノロジー」について、小林啓倫氏が解説する。
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