“あすけんの女”運営も「バイブコーディング」 工数増でもメリットあり? AIで開発、本当の価値は(2/2 ページ)
その時に発生した課題を、askenの岩間良浩氏(プロダクト開発部 シニアテックリード)は以下の3点に整理した。
・LLMのAPIの応答速度が目標を下回った
・ログ(動作記録)やメトリクス(稼働指標)の収集、トレーシング(処理経路の追跡)が未実装で監視やエラー調査ができなかった
・保守性を欠いたコードゆえに処理やデータ構造の把握に膨大な時間を要した
岩間氏は、これらの課題の原因について「要件定義を“動くPRD”に置き換えたことで、要件を満たしていない性能や実装が発生したこと」や「詳細設計、実装、単体テストのサイクルを“動くPRD”の改善活動で置き換えたことで、保守性を欠いたコードが発生したこと」で、後戻りの工数が増加してしまったと分析。
そもそも、“動くPRD”は「ユーザーが使ってくれるという確証」や「大まかな機能要件を満たしたコード」などを提供してくれる一方で、非機能要件や性能などの品質情報が含まれておらず、従来の開発手法と比較して精細を欠いたアウトプットになってしまった。
では、“動くPRD”を上手く活用して、開発プロセス全体を効率化するにはどうすればよかったのか。同社の結論は「“動くPRD”を活用した要件定義と基本設計」だ。
“動くPRD前提”の開発プロセスに進化
“動くPRD”を活用した要件定義と基本設計の鍵は、AIによるリバースエンジニアリング(既存のソフトウェアを解析してその仕組みを明らかにすること)だ。“動くPRD”を解析し、要件定義や基本設計に必要な情報を抽出する作業にClaude Codeを使うことで、機能要件の把握を効率化する。同時に、非機能要件の定義や設計は従来通りの手法で進めることで、バイブコーディングによる要件の反映漏れを防ぐ。
もっとも、AIによるリバースエンジニアリングの精度は元のコードの品質に左右される。“動くPRD”に、型定義が欠如しているなど品質の低いコードも混じっていると、解析の精度が下がってしまうのだ。この課題を解決するために、エンジニアチームはPdMに対して、コードの品質を向上させるClaude Code Pluginを提供。PdMにコーディングスキル向上を強いることなく、“動くPRD”の品質を向上させることに成功した。
「労働時間は変わらない」 それでも確かな成果
askenでは開発効率化のためにバイブコーディングを取り入れたが、実際にはかえって工数が増えてしまうという現実に直面。これを乗り越えるためにさまざまな工夫をし、“動くPRD”を前提とした効率的な開発プロセスを確立した。しかし、岩間氏と伊藤氏はこの取り組みによって「労働時間が減ったわけではない」と明かす。
では結局のところ、バイブコーディングを起点に開発を進めることで、どのような価値が生まれたのか。
伊藤氏は「あすけんラボで上手くいかなかったものはエンジニアに渡さない(=本番環境で開発しない)という判断ができるため、(確度の低い新機能を開発するという)無駄な稼働をしなくて済みます。その分、(確度の高い新機能の割合が増えることで)会社やプロダクトのロードマップを前に進められていると感じます」と説明。岩間氏も「時間をかけて作り込んだ機能がユーザーに使われないということが減ったので、精神的に楽になった面はあります」と新しいプロセスのメリットを強調した。
また、伊藤氏は「AIおまかせ記録のような機能は、(バイブコーディングを取り入れた)このプロセスがなければ生まれなかったかもしれない」とも語る。画面イメージのみの従来のプロトタイプでは、同機能の魅力がユーザーに伝わらなかった可能性がある。実際にユーザーが使える形でプロトタイプを用意できたからこそ、ユーザーも社内のメンバーもその効果を実感でき、それが本番実装の原動力となったという。
生成AIによって圧倒的なスピードでのコーディングが可能になったが、工夫のない低品質なコードは「AI Slop」(AI生ゴミ)とも言われ、レビューする人間を疲弊させる。askenのように新しい開発プロセスを用意できる企業が、真に生成AIを使いこなして生き残っていけるのかもしれない。
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