2024年の東京都知事選出馬や、各種メディアへの出演で、一躍“時の人”となりつつある、AIエンジニアの安野貴博(たかひろ)氏。AIエンジニアという肩書や、積極的にテクノロジーを活用して政治の改善を目指す姿勢もあって、生成AI活用における有識者としても注目度が高い。
そんな安野氏自身は、一体どんな生成AIを活用し、日々の仕事をこなしているのか。普段の“標準装備”から、関心のあるツール・大規模言語モデル(LLM)、その用途や使い方を聞いてみた。
――普段どのようなAIツールを使用していますか
安野氏:基本的にはChatGPTの200ドルのプランに入り、すぐに答えが必要な時は「GPT-4o」を、より賢い答えが必要な時は「o1」を使うという感じです。コーディングの時には基本的にはMCP(Anthropicのモデルコンテキストプロトコル。AIモデルとツールを連携させる仕組み)連携した「Cline」(Visual Studio CodeのAI拡張機能)を動かしているのが最近の状況です。
また、最近試用しているAIプログラマー向けのプロダクトに「Devin」というものがあります。このAIは自律的にVSCode上でファイルの編集や計画立案、ブラウザやターミナル操作など、あらゆるタスクを実行できるものです。
Devinのいいところは、SlackやGitHubの会話を見ていて、ナレッジをためていけるところです。プロジェクト固有の情報を把握して、人間に確認してくれる。このやり方は一つキーだと思います。
しかし、複雑なタスクを与えた際の完遂率はまだ低い状況です。例えば、途中で処理が止まってしまったり、「これをこうすれば解決できるのに」という発想が得られなかったり、既存のアプリを活用すればすぐに解決できる問題に気付けなかったりと、さまざまな課題があります。
――ClineはさまざまなAIモデルと組み合わせて使用できますが、昨今その性能や安価さから注目を集めている中国DeepSeekの言語モデル「DeepSeek V3」と組み合わせてお使いでしょうか?
安野氏:個人的にはDeepSeek(のモデル)は使用していません。データの取り扱いに関する不透明さや、データの出元がOpenAIの規約に抵触する可能性への懸念から、本番環境での活用は控えています。
そのため、実際の性能や能力についても十分な評価はできていない状況です。ただし、他のユーザーからは高い評価を得ているようです。現在はClaude 3.5 Sonnetを採用しています。
――ClineやDevinは昨今AIエージェントとして注目を浴びているサービスです。安野さんが、AIエージェントに対してどのように注目しているか教えてください
安野氏:AIエージェントとしては、Cline、Devin、「OpenHands」(旧OpenDevin)の3つに特に注目しています。これらAIエージェントは本当にゲームチェンジャーになると確信しています。まずエンジニアの業界から普及が始まり、その後、さまざまな分野に広がっていくでしょう。
米Anthropicが2024年11月ごろに発表したMCP連携により、AIエージェントの活用できるツールが増えていくエコシステムが今年整備されていくでしょう。これにより、AIモデルの能力を最大限に生かせるよう、人間の持つ文脈情報とツール群の両面から環境が整備されていくと考えています。
AIエージェントは、私たちが現在開発しているプロジェクトにおいても重要なニーズとなっています。特に、オンライン上で熟議ができるプラットフォームを構築する上で、AIエージェントの役割は非常に大きいのです。
過去に台湾で同様の取り組みを行った際、「なぜそう考えるのですか?」という議論の深堀りや、攻撃的な発言のモデレーションなど、人間のファシリテーターの負担が膨大でした。25年には、こうした役割をAIエージェントが担えるようになると考えています。
なお、安野氏に対しては「政策に通底する理念」や「AIスタートアップの概況やAIエージェントの展望」についても聞いており、それぞれ別途記事化している。
生成AIの最新テクノロジーや活用トレンドを解説
生成AIでどのように業務を変革していくべきなのか──企業の生成AI活用について、ITmediaのIT&ビジネス系メディアが総力でお届けする「ITmedia AI Boost」を開催します。企業のリアルな事例や専門家の詳しい解説などを配信します。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.