米Anthropicは3月5日(現地時間)、AIによる労働市場への影響を測定するための新しい指標「Labor market impacts of AI」を発表した。
同社がこのような指標を作成した背景には、過去の経済的混乱(業務のオフショア化や産業用ロボットの導入など)における労働市場への影響予測が、しばしば不正確だったという歴史的な反省があるとしている。そのため、AIによる雇用への深刻な影響が明白になってしまう前の段階で、経済的な混乱をより確実に特定・測定するための基礎的な枠組みを確立することを目的としている。
調査方法として、米国労働省の職業情報ネットワークO*NETが定義する約800の職業タスクデータ、LLMが理論上タスクを高速化できるかを測る既存の予測データ(米OpenAIの研究者らによる論文「GPTs are GPTs」によるタスクごとの露出度推計など)、「Claude」の実際の利用データ(Anthropic Economic Index)の3つを組み合わせている。理論上可能かどうかだけでなく、実際の職場環境でどの程度AIが「自動化」として利用されているかを重み付けした新しい指標「observed exposure」を用いているのが特徴だ。
職業カテゴリ別に見たAIの「理論上の能力」と「実際の使用状況(観測された露出度)」青色の領域はLLMが理論上実行可能なタスクの割合を、赤色の領域は実際の職場でのClaudeの使用データに基づく実際のタスクカバー率を示す(画像:Anthropic)実際に最も影響を受ける(露出度が高い)職業のトップ10について、レポート内で10項目すべての具体的な職業名は明かされていないものの、最上位層としてコンピュータプログラマー(タスクの74.5%が代替可能とされる)、カスタマーサービス担当者、データ入力担当者、財務アナリストが挙げられている。
一方で、影響を受けにくい職業の傾向としては、樹木の剪定や農機具の操作といった物理的な肉体労働、法廷での顧客の代理業務といった法的な制約がある業務が挙げられる。また、利用頻度が低く基準を満たさない調理師、オートバイ整備士、ライフセーバー、バーテンダー、皿洗いなどで、労働者の約30%は影響度ゼロ(カバー率0%)に分類されている。
この指標の主眼は、影響がまだ曖昧な初期段階で、最も脆弱な職業を特定することにある。失業者が次の仕事を探す期間に必要となる「政策的な対応」の必要性を早期にシグナル化し、監視することを重視しているためだ。そのため、AIの影響を受けないようにする労働者個人向けの具体的な対策や提案は行っていない。
この指標の信頼性については、多角的に考察したという。AIの理論上の能力と実際の使用データには高い相関が見られるものの、現時点での実際のAI利用は理論値には遠く及んでいないことが示されている。例えば、コンピュータや数学系のタスクでも実際のカバー率は33%にとどまっている。しかし、この指標でAIへの露出度が高いとされた職業は、米国労働統計局(BLS)による10年間の雇用成長予測では成長率が低く見積もられる傾向があり、独立した労働市場アナリストの予測と連動する一定の妥当性が確認されている。
なお現時点では、露出度の高い職業で若年層(22〜25歳)の採用がわずかに鈍化している可能性を示す証拠はあるものの、全体として失業率の構造的な上昇は見られず、現状の影響は限定的だと結論づけている。
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