「ChatGPT」で生成AIブームをけん引した米OpenAIが5月、かつて自社から独立した研究者たちが設立した米Anthropicに、企業向け市場でついに逆転を許した。
4月に流出した同社の社内メモは、OpenAIの焦りを隠さない異例の内容だった。
そして、メモの中でライバルへの批判として語られた言葉が、そのままOpenAI自身の反転攻勢の宣言でもあった。
4月初め、米サンフランシスコで開催されたエンタープライズAI業界カンファレンスであるHumanXに集まった6700人の経営幹部の間で、ある言葉が飛び交った。
AnthropicのAIへの熱狂を表現した「クロードマニア」という言葉だ。企業向けAIスタートアップである米Gleanのアーヴィンド・ジェインCEOは「もはや宗教のレベルだ」とその過熱ぶりを評した。
数字もその熱狂を裏付ける。業界調査によれば大規模言語モデル(LLM)の利用に対する企業のLLM API支出において、Anthropicは40%を占め、2023年の12%から急拡大している。対するOpenAIは27%、米Googleは21%だ。Anthropicの年間換算収益は、2025年末の約90億ドルから2026年3月末には300億ドルへと急増した。その原動力が、コーディング特化のAIツールである「Claude Code」だ。
一方のOpenAIは、自らの年間換算収益を250億ドルと主張する。総収益の規模ではまだ上回るものの、成長の勢いと企業市場でのシェアにおいて、すでにAnthropicの後塵を拝しているのは否定しがたい現実だ。
こうした状況を受け、OpenAIが最高収益責任者であるCROとして2025年12月に招いたデニス・ドレッサー氏が、4月13日に社員向けにメモを送付した。米The Vergeや米CNBCがその内容を報じたことで公知となったこの4ページの文書は、競合他社を名指しで批判するという、企業文書としては異例の踏み込んだ内容を含んでいた。
ドレッサー氏は、Anthropicのブランド戦略を「彼らのストーリーはAIへの恐怖と制限、そして少数のエリートがAIをコントロールすべきという考えの上に成り立っている」と切り捨てた。Anthropicのダリオ・アモデイCEOが、AIの危険性について繰り返し公に警告してきた姿勢を念頭に置いた発言だ。
財務面における追及も容赦がない。Anthropicが報告している年間換算収益300億ドルについて、約80億ドルが過大計上だと社内で主張した。
Anthropicが米Amazon Web ServicesやGoogleとの収益分配を、総額を示す「グロス」で計上しているのに対し、OpenAIは米Microsoftとの収益分配を純額を示す「ネット」で計上しており、上場企業基準に近いという論理だ。ただしこれはメモ内の主張であり、OpenAIの公式見解ではない。
Anthropicは英Financial Timesの取材に対し、匿名の関係者を通じて「クラウドパートナーとの取引では自社が取引の主体であり、グロス計上は標準的な会計処理にのっとっている」と説明した。だが、公式声明の発表には至っていない。
さらにドレッサー氏は、計算資源であるコンピュートの確保についても、Anthropicは戦略的ミスを犯したとし、それが製品の絞り込みやサービスの安定性の低さに現れている、と断じた。
しかし、このメモで最も注目すべきは、ライバルへの批判として語られた一文が、同時にOpenAI自身の戦略の核心を表していることだ。
ドレッサー氏は「プラットフォーム戦争において単一製品企業でいることは望ましくない」と論じた。Anthropicのコーディング特化戦略について、初期の足掛かりにはなったものの、AIが開発者チームを超えて、あらゆる部門やあらゆる業種に広がるにつれ、弱点になるという見立てだ。これは相手への批判であると同時に、OpenAIが目指す方向の宣言でもある。
ドレッサー氏はメモの中で「私たちは別個の製品ラインを持つ企業として考えるのをやめるべきだ」とつづる。目指すのは、経済の好循環を意味するフライホイールの構築だ。より優れたモデルが利用を促進し、利用の深まりがシステムの統合を深め、それが複数製品の採用を促して顧客を離れられなくする、という好循環である。
OpenAIが描くプラットフォームの構成要素は、すでに幾つかが動き出している。中核となるのが、2月に正式発表したエージェント基盤の「Frontier」だ。企業全体のAIエージェントを構築・展開・管理する、知能の基盤となるインテリジェンス層として位置付けられ、米Oracleや米Uber Technologiesなどがすでに採用している。AIエージェントが社内の複数システムをまたいで動き、記憶を持ち、時間をかけて改善していく仕組みを提供する。
Frontierの普及を加速させるために2月に発表したのが「Frontier Alliance」だ。米Boston Consulting Group、米McKinsey & Company、米Accenture、仏Capgeminiという世界最大級のコンサルティング4社との複数年パートナーシップであり、各社がOpenAIの導入支援を担うFrontier Deployed Engineeringチームと連携しながら顧客企業へのAI導入を支援する。
流通面では、クラウド基盤をMicrosoftの「Azure」中心から「Amazon Web Services」へと拡大するシフトが進む。ドレッサー氏はメモで「Microsoftとのパートナーシップは成功の礎だったものの、同時に顧客がすでに使っているインフラの上でOpenAIのモデルを提供できないという足かせにもなってきた」と率直に記した。
企業が主要なAIモデルをクラウド上で横断的に利用できるプラットフォーム「Amazon Bedrock」を擁するAWSへの接近は、すでに企業のシステムが構築されている場所でそのままAIを調達したいという強いニーズに応えるものだ。2月の連携発表以降、想定を超える引き合いが続いているという。
また、メモの中では「DeployCo」と名付けたサービスの構築計画にも言及があった。コンサル4社が戦略立案を担うのに対し、DeployCoはAIエージェントを企業の既存システムに実際に組み込む展開の実行部隊として機能するものとみられる。企業向けAI導入の最終工程を意味する最後の1マイルを埋める仕組みであるものの、詳細はまだ公式発表されていない。
モデル面でも、より強力な推論と意図認識、本番環境での信頼性が特徴とされる新モデル「Spud」への言及があった。
ただし、この大転換に対して懐疑的な声もある。OpenAIは口コミで爆発的に広がるコンシューマー向けの成長モデルによって急拡大してきた企業だ。そのような組織が、長い販売サイクルやコンプライアンス対応、複雑なシステム統合を前提とするエンタープライズ市場に本格参入するのは、技術的な問題よりも運用上の大きな挑戦となる。
Financial Timesの報道によれば、一部の投資家はOpenAIがここ6カ月でプロダクトロードマップを二度も見直したことを問題視しており、今秋にも見込まれる新規公開株であるIPOを前に、戦略の焦点が定まっていないと懸念を示している。
ドレッサー氏自身もメモの最後を「市場は私たちが勝ち取るべきものだ、そのように実行しよう」と締めくくった。宣言の力強さとは裏腹に、実際に市場を勝ち取れるのかどうか。メモを書いた本人も、これが組織の命運をかけた巨大なチャレンジであることは百も承知のようだ。
本記事は、エクサウィザーズが法人向けChatGPT「exaBase 生成AI」の利用者向けに提供しているAI新聞「OpenAIの社内メモで露わになったAnthropicに対する焦り」(2026年4月15日掲載)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集の上、転載したものです。
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