中国が人型ロボット開発競争をリードする「納得の理由」 日本に残された逆転シナリオは?
米中がリードする人型ロボット開発競争において、伝統的なロボット産業を持つ日本はどう立ち回ればよいのか――5月28日に東京都内で開かれた国際会議「Humanoids Summit Tokyo 2026」では、米McKinsey & Company(以下、マッキンゼー)や経済産業省の有識者が登壇し、日本が米中に並ぶ“第三極”になるための手がかりを示した。
中国がヒューマノイド産業をリードする理由
投資が過熱する人型ロボット市場において、圧倒的な存在感を示しているのが中国だ。フルスタックの人型ロボットエコシステム構築を国家として目指すロードマップを2024年に発表し、物流拠点や工場に資金を集めている。
マッキンゼーのレポートによればその効果は既に表れており、2024年だけで35種類以上の人型ロボットモデルが発表され、これは他のどの地域よりも圧倒的に多いという。2025年には、国がAIやロボット工学などのハイテク分野に今後20年間で1380億ドル(約22兆円)の基金を設立することを発表した。マッキンゼーのアニ・ケルカー氏(パートナー)によると、人型ロボット開発で5000万ドル(約80億円)以上を調達した企業は世界に80社超あり、その多くは中国と北米に集中している。
ケルカー氏によれば、中国の強さの源泉は部品供給網だ。モーターやパワーエレクトロニクス、磁石などヒューマノイドの主要部品は電気自動車(EV)と重なり、国としてEV産業を後押ししてきた中国にそれらの部品の生産が集中している。また、中国はレアアース採掘や磁石加工・精錬にも強みがあり、原材料調達においても優位性がある。
逆転の鍵は「ボトルネック部品」
一方でケルカー氏は「勝敗は製品デモではなく、本物の産業製品を生み出す能力で決まる」と強調し、「日本にはメカトロニクス(機械工学と電子工学)の蓄積を生かして『チャイナプラスワン』(中国への依存度を減らすための分散拠点候補)になるチャンスがある」と述べた。現状、供給リスクが高い部品の生産を日本が担うことで、中国に対抗できるという見立てだ。
マッキンゼーは、特にサプライチェーンのボトルネックになりやすい部品カテゴリーとして「アクチュエーター」と「センサー」を挙げる。
アクチュエーターは電気や空気圧、油圧などのエネルギーを動作に変化する装置だ。この中でも、ロボットの関節などを動かすのに使う波動歯車減速機は日本のハーモニック・ドライブ・システムズやナブテスコ、中国のLeader Harmonious Drive Systemsなど少数のメーカーに生産が集中しており、需要が供給能力の拡大を上回る可能性があるという。
センサー類もサプライヤーが限られており、供給リスクが高い。また、ロボット向けのセンサーは小型かつ高精度が求められるため、各企業が独自で開発している段階にある。マッキンゼーはこの領域に「最もオープンなプラットフォームの可能性」があると位置付け、早期に製造を拡大できるメーカーが主導権を取れるとした。
データと部品の両面で米中に続く「第三極」へ
では、こうした開発競争に日本はどう臨むのか。その青写真を描くのが経済産業省だ。同イベントに登壇し、経済産業省でAI・データ・ロボティクス政策を担当する奥谷俊一氏(商務情報政策局 次長)は、生成AI向けの計算資源確保から始まった支援策「GENIAC」においてフィジカルAI向けの支援策も拡充する方針を説明した。
奥谷氏は、日本の製造現場や試験現場が持つデータこそが、フィジカルAIの基盤モデルの精度を左右すると指摘。経済産業省はGENIACやAIロボット協会(AIRoA)との連携で、ロボット向けAIモデルの基盤となるデータ整備を進めると共に、高品質なセンサーによるデータ収集にも乗り出す。
経済産業省は、日本が2040年に米中と並ぶ「第三極」として多用途ロボットの世界シェア3割超、20兆円規模の市場を獲得することを目指し、26年3月に「AIロボティクス戦略」を策定。その中で以下4つの主要施策を掲げている。
- ロボットメーカーや部品メーカー、SIerと連携し、モーターや減速機、センサーなどの重要部品や、移動・可動の仕組みといった各種コンポーネントの標準化、共通化を進め、それらを国内で供給する能力を強化する
- 製造現場のデータ活用や海外研究機関との連携を通じて、ロボット基盤モデルの開発能力を向上させる。AIRoAが2027年6月ごろに国産モデルのベータ版をオープンソースで公開予定
- 各産業におけるロボットの導入予知を検討し、導入に向けた環境整備が必要な領域を特定する
- 海外の主要企業、研究機関などと連携して世界のトップ人材や情報、プロジェクトを集積し、研究開発や社会実装、人材区政の中核拠点を整備する
奥谷氏は「中国は多様な部品を多様な価格で選べるが、日本はそうではない。供給網を改善しなければならない」と述べ、マッキンゼーも指摘していた重要部品の供給体制構築について、既に国として動き出していることを強調した。
米中が巨額の資金を投じる中、日本が第三極を担うためには、これらの戦略を絵に描いた餅で終わらせず、部品生産とデータ整備をどれだけ速くスケールできるかにかかっている。
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