第3回 この会議のゴールを知っているか?議事録ドリブンで会議の効率アップ

“議事録ドリブン”を実行する上で、最初のチェックポイントは「会議のゴール」だ。今会議に参加しているあなた、この会議のゴールを知っていますか?

» 2006年11月06日 20時12分 公開
[鈴木健,ITmedia]

 前回は、議事録ドリブン会議の概要を紹介しました。議事録ドリブンの会議では、議事録のサイクルは、次のようになっていました。

 今回説明するのは、議事録に書かれていなくてはいけない最初のポイント──会議のゴールです。もしあなたの参加する会議で、会議のゴールが何かを誰も最初に聞かないようならば、その会議の半分は失敗することでしょう。

プラクティス2──ゴールの共有(shared goals)

 まずは私の体験談から。私は、最初に入社したとあるスタートアップの会社で、入社2カ月でいきなりプロダクトマネージャを任されました。プロダクトマネージャは、関係各位との意見交換や調整が仕事のようなものです。開発と営業の双方から、山のような要望が私のところに投げられてきます。しかもまだ製品は発売されていないのです。

 そういったテンテコ舞いの状況の中、私は当時の社長と会議をセッティングしました。彼を会議室に通して着席したが開口一番、社長が聞いてきたのは「この会議のゴールは何ですか?」です。虚をつかれる質問にうろたえて、「ゴール。会議のゴールって何ですか?」と聞き返すとと、彼は微笑んでこう答えました。「その会議が何を達成したら成功裏に終了したことになるのかを定義することです」

 このスタートアップの会社の社長は、シリコンバレーの大手IT企業に勤めた経験がありました。向こうでは、会議のゴールを定義してから会議を始めるという文化が、当然のように根付いていたそうです。

 もしも、会議でどうしても場を乱す人がいたとしたら、原因の3割はその人自身ではなく、ゴールが設定されずにその会議が開催されているからでしょう。何がゴールかが明確でなければ、オウンゴール(自殺点)を上げる人がいても責めることはできません。

 よいゴールと悪いゴールの違いは何でしょうか。よいゴールは、達成したいことが具体的です。「次回展示会の準備について議論する」に比べて、「次回展示会の課題リストを完成させる」のほうがより具体的。「議論する」のはプロセスであってゴールではありません。ゴールでは、何が達成されたら会議は成功なのかを、具体的に定義しなくてはならないのです。

 ゴールは、会議ごとではなく、トピックごとにあったほうがいいと思う人がいるかもしれません。確かにその通りです。1つのトピックしか話さない会議であれば、会議ごとのゴールだけでも問題はありません。しかし、会議に複数のトピックがあるのならば、トピックごとにゴールを設定しましょう。

トピック= テーマ+ゴール

 という式を頭に入れてください。

 よく、「次回展示会の開催」「次回展示会の開催の件」「次回展示会の開催について」のようなアジェンダを目にしますが、これではアジェンダ設定者が何も考えていないことを暴露しているようなものです。何が達成されれば成功なのか分からないままでは、会議の参加者は準備もできないし、会議中も議論が迷走しがちです。

悪い会議のアジェンダの例

  1. 次回展示会の開催について
  2. 予算について検討
  3. 新しいPCの購入計画

よい会議のアジェンダの例

  1. 次回展示会の開催の課題リストを完成させる
  2. 予算案の設備投資増額のしわ寄せ問題を解決する
  3. 新しいPCの購入の必要性をヒアリングしてリストアップする。

 会議を主催した人がゴールを決めていても、会議の参加者全員がそれを認識しているとは限りません。ゴールは決定されていることが重要なのではなくて、共有されていることが重要なのです。ゴールを共有するための最もよい方法は、会議の冒頭に必ずゴールを読み上げることです。参加者からゴールを変えたほうがいいという提案があるかもしれません。その場合はしっかりと議論して、説得するなり、ゴールに修正を加えることが必要です。ゴールが納得をもって共有されて、初めてゴールは有効に機能するのです。

 会議中にゴールを忘れることも多いので、みんなが見ているホワイトボードやプロジェクターに、ゴールを文章として書いておきましょう。

 議事録ドリブンの会議では、議事録の最初に会議のゴールを書くことからスタートします。そして、すべてのトピックに対して、ゴールが設定されているかを確認していくのです。ゴールが書かれていなければ、参加者の誰かがそれを指摘しなくてはなりません。ゴールを共有する文化が根付いていないところで、これを行うのには困難を伴いますが、一度やってしまえば効果は一目瞭然です。

 できれば、ゴールは会議が開催される前に告知してしまいましょう。会議の開催告知やリマインド時がよいチャンスでしょう。

プラクティス3──リマインド(remind meetings)

 会議は、参加者が時間通りに会議室にやってこないとそもそも始まりません。遅刻してくる参加者が多い場合には、会議を予定時間通りに始めてしまうのが最も効果があります。遅刻している人を待って会議をスタートしていると、普段遅刻しない人まで遅刻しがちになってしまうからです。

 遅刻の原因としては、単なる開始時間の記録ミスや勘違い、会議場所を間違えるなども多々あります。この、本質的ではないけれど重要な問題を解決するためには、会議開催の前日に、会議時間と場所、会議のゴール、議題(アジェンダ)についてリマインドをするほかありません。一番よいのは一人一人に電話をして確認をする方法ですが、参加者が多い場合にはこれは大変な作業になります。少なくともリマインドメールを忘れずに送っておきましょう。

 このメールにアジェンダ(トピックリスト)を入れておくことが重要です。何を話すのかがあらかじめ決まっていれば、参加者は意見を整理する準備ができますし、このテーマを話すなら来よう──という動機づけにもなるからです。

 会議が始まる前から議事録作りは始まっています。トピックのうちいくつかは、前回の会議の最後に出されたもので、残りはその後に出されたものでしょう。リマインドメールは未完成の議事録なのです。

 さて次回は、いよいよ会議を始めてみましょう。

筆者:鈴木健

国際大学GLOCOM主任研究員、サルガッソー社長。サルガッソーでは、究極の会議を実現するためのツール「Sargasso XM」を開発している。「伝播投資貨幣」という概念の通貨「PICSY」の研究・実装に取り組み、個人ブログとしてPICSY blogを運営している。IPAの未踏ソフトウェア創造事業に採択(2002年)、同年度の天才プログラマー/スーパークリエータに認定。共著書に「NAM生成」「進化経済学のフロンティア」


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