シャアの名言に学ぶ、仕事術(上)君はガルマになっていないか?(2/2 ページ)

» 2006年12月06日 01時48分 公開
[斎藤健二ITmedia]
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『認めたくないものだな──』

 『認めたくないものだな……自分自身の、若さ故の過ちというものを』──。シャアのセリフの中でも、最も有名なものの1つといえるだろう。

 サイド7で、勝手に暴発し連邦軍と戦ってしまう部下。ところがガンダムが起動してしまい、結果2機のザクが失われてしまう。部下の暴発を押さえられなかったこと、そして上司に報告をせず勝手に追跡して、2機のザクを失ってしまったシャア──。

 「このときのシャアは全然反省していないんですね。過ちだと思う話し方をしていないんです。楽しんでいるというか、余裕がすごくある。マイナスをプラスに変えることをもう考えている。『この失敗をフォローしよう』というタイプではないんです」

 「ビジネスパーソンでいえば、上司の判をもらわずに勝手に決済してしまった、それが焦げ付いてしまったという感じです。しかし、焦げ付きを隠しながら取り返せるバクチにいくという人ではなかった。殊勝に報告して、『自分が失敗したんですから、それだけ大きな案件です。追加補充をください』ということを言うわけです」

 シャアが上司であるドズルに報告したときの流れはこうだ。まず「連邦軍のV作戦を発見しました」「よくやった。さすがシャアだな」とドズルがほめる。続いて「3機のザクを失いました」「何をやっておる!」「3機のうち、2機は連邦軍のモビルスーツにやられました」「なに、それはそんなにすごいのか?」

 「この理屈です。ずるいですが。そして『補給をください』『そこまでのものだったら補給をやろう』──。人間としては微妙なところも感じますが、まぁこれは仕事のことだから、で割り切れるところもあります。仕事とプライベートの切り分けができる人はこんな感じかもしれません。『失敗しちゃってどうしよう。あぁ』とは思わず、自分は生きてるんだし能力もあるし、この失敗から逆に『よくやった』と言わせられるんじゃないか。そういう切り分けができる人なんだと思います」

 失敗をチャンスに変える。こういったずるさもシャアに見習うべきところだろう。

『あれがか……見掛け倒しでなけりゃいいがな』

 いったんの失脚ののち、南米・ジャブローへ降り立つシャア。攻撃部隊の新モビルスーツとして披露された「ゾック」を見て、シャアが言ったセリフが『あれがか……見掛け倒しでなけりゃいいがな』だ。

 シャアは自身も現場の人間だ。自分で見たもの以外は信用しない。自分がスタンドプレイで出世してきたためか、部下のスタンドプレイも厳しく咎めることはしない。ただし、責任については厳しい。

 「シャア自身は人に聞いたことは全然信用しない。自分から現場に出てしまう人ですね。部下から見たときには、『こうすれば弾は当たらない。こうすればいい』とやりかたは教えてくれるがが、でも自分でやれと突き放す。極めて本人次第のところがあります。でも部下は慕っている。それは成果主義なところがあったからじゃないでしょうか。細かいことをくどくど説明したり、縛ることはなく大枠で説明する。部下のスタンドプレイについても、ものすごく咎めるという形ではない」

 「1年戦争の後半でマリガンという副官が付くんです。試作モビルアーマーのザクレロが出撃したとき、ザクレロがあることをシャアは知らないんですね。シャアはマリガンに、『自分は聞いてないけどどういうことだ?』と聞くと、マリガンは『仇を討つために彼は出て行ったんです』と答えるんです。対してシャアは、『そんなモビルアーマーがあることは私は聞いていない。後で責任は取ってもらうよ』といって不問にするんです。不問にするんだけど、こんなプレッシャーはない」

 縛るんじゃなくてチャンスを与えてやる。奮い立つ人もいれば、プレッシャーを感じる人もいる。部下からすればこれをチャンスと捉えるかどうかだろうか。

『どうもおぼっちゃん育ちが身にしみこみすぎる』

 圧倒的な戦力で木馬(ホワイトベース)を包囲することに成功したジオン軍。モニター越しにこれを見、「これなら必ず勝てる!」と叫ぶガルマ──。これを見たシャアがつぶやいたセリフが『どうもおぼっちゃん育ちが身にしみこみすぎる』だ。

 木馬は避難民輸送の名目で休戦提案し、それによってジオン軍の包囲が完成した。当然、これを予想していたはずの木馬。何かの意図が隠されていると考えるべきだろう──。

 「ガルマは浮かれちゃうところがあるんですね。文化祭の実行委員とかによくいるタイプでしょうか。サークル活動とか、わぁっと騒いで自分がすごい仕事をした気になってしまう人。友人としてはいいけれど(『君はいい友人だったが』)」

 「シャアが客観視して物事を見るのに対して、ガルマは都合のいいようにものを見てしまう。本当の意味でプラスではなく、マイナス要素に目をつぶってプラスしか見ない。それがガルマですね。塩野七海のローマ人の物語で、世の中には自分の都合のよいことだけを見る人と、都合のよくないことまで見る人の2通りいるという言葉が出てきます。この二通りの対象が、まさにガルマとシャアなのです。都合の悪いことまで見ながら、『認めたくないものだな』と言う人間と、『これで勝てるぞ』と言ってしまう人間の差が、“お坊ちゃん育ち”という言葉に象徴されているのでしょう」

 →後編に続く

評伝シャア・アズナブル

『機動戦士ガンダム公式百科事典』の編著者が描く《宇宙世紀の英雄》の生涯。シリーズの中で最も知名度、人気ともに高いキャラクター、シャア・アズナブルの生涯を実在の人間を扱うかのように小説形式で再現する。“宇宙世紀の司馬遼太郎”こと皆川ゆかが放つ英雄の一代記。

オタクアイテムだけでなく、普通のサラリーマンが通勤電車の中で気軽に読めることを目指した。


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