シャアの名言に学ぶ、仕事術(上)君はガルマになっていないか?(1/2 ページ)

『認めたくないものだな──』。30代の誰もが知っているシャアの名セリフ。しかし、セリフの奥にビジネスパーソンにとっての深い教訓が刻まれていることをキミは知っているか?

» 2006年12月06日 01時48分 公開
[斎藤健二ITmedia]

 「龍馬に学べ? いや、シャアでしょ」──。

 ネット世代のビジネスパーソンにとって、歴史上の偉人といえば、古代中国でもなく幕末の志士でもなく、ガンダムのシャア・アズナブルである。組織の中で自らの存在意義を考えつつ、ドズル、キシリアという派閥争いの中を泳ぎ回る。若くして昇進を重ねながらも、ニュータイプとしては一流ではないという自らの能力に苦悩する。人間、シャア・アズナブル。その考え方は数々の名言となって、ガンダムの世界の中で光り輝く。

 今回はシャアの7つの名言を取り上げる。生き方、仕事を達成していく上で目の前の課題に対して、また組織内の自身のあり方について、ビジネスパーソンはどう考えるべきか。シャアのセリフを元に、「シャアの行動に学ぶビジネスパーソンの心得」を、『評伝シャア・アズナブル』の著者である皆川ゆか氏に聞いた。

『戦いとは、いつも二手三手先を考えて行うものだ』

 シャアは大気圏突入時に、ホワイトベースに攻撃を仕掛けるという作戦を立案、実施している。この時期においては例を見ぬ作戦だった。燃え尽きるまでに戦闘可能な時間はわずかに2分──。評伝シャア・アズナブルでは、このときの戦闘の状況をこう記している。

 このときシャアは2分間でホワイトベースを撃沈できなかった場合のことも考えていた。皆川氏は次のように説明する。

 「例えばホワイトベースが大気圏に突入するとき、シャアは敵の側面に攻撃を集中させていました。こうすれば撃沈こそできなくても、軌道がずれてジオンの勢力圏である北米に降下させることができる──。この作戦などは、攻撃の方向を一方向に集中させるだけで、次の準備ができるわけです。無駄のない洗練された形で」

 補給を待たずに突撃要員の招集を命じたシャア。副官のドレンが「補給艦の到着を待つのではないので?」いう質問に答えたセリフが『戦いとは、いつも二手三手先を考えて行うものだ』というものだ。同様に大気圏突入時の作戦も、まさに二手三手先を考えたものだといえる。この作戦を賞賛するドレンに対し、シャアは「戦いは非情さ」と答えた。

 「つまり、常に二手三手先を考えるということは、二手三手先が出てこなかった作戦もあるということです。すごく無駄なことをしているわけです。考え方によっては。二手三手先を考えるという時間をきっちり取って用意しておく。そのための布石を打つ。それも、できる限り無駄にならないように」(皆川氏)

 「最初の作戦が失敗したから二手目があるわけですが、『うまくいくだろう』という楽観で行動していない。無駄を承知で考えている。ただし行動としての無駄は最低限にしたい」

 楽観で行動せず、二手目につながる一手目を無駄のない形で考える。ここにビジネスパーソンの行動指針につながる教訓が1つある。

『私もよくよく運のない男だな──』

 ホワイトベース=木馬のサイド7への入港を捕捉したシャアが、ストーリー上の初セリフとして言ったのが、この言葉だ。「私もよくよく運のない男だな。作戦が終わっての帰り道であんな獲物に出会うとは……」

 作戦が終わって弾薬なども尽きかけている状況で、敵の新造艦に出会う。人によっては、まさにピンチ。“運のない男”だと思うだろう。しかしシャアの自嘲は少し違う。普通の人がこんなの無理だろう──と思うものも、いや引いて見れば、別のものが見えてくるから全然不可能じゃない。ではこの自嘲するセリフからは、どんなことを読み取れるだろうか。

 「状況を客体視するということです。シャアは、自分が物語の中にいるのを認識しながらシャアを見ているようなところがあります。『機動戦士ガンダム』という番組の登場人物であることを理解しながら演じているようなセリフです。後世の人が『シャアはこのときそう思った』と言うようなしゃべり方を自分でして、自己確認していくんです普通は逆転の発想といいますが、逆さまに見るのではなく、遠くから見る。状況全体を把握して、流れをコントロールする」(皆川氏)

 シャアは仮面を常にかぶっているが、この仮面の効果もあるだろう。“シャア少佐”が彼にとってすべてではない。そこが余裕につながっている。

 「『○○という会社の△△です』。このとき○と△が一致していないと辛いかということです。会社を定年退職すると惚けてしまう人もいます。それはアイデンティティをそこに持ってしまうから。もう少し距離を持てればいいんです。少なくともシャアは“シャア少佐”ではなくなっても、自我が崩壊したり惚けたりはしないはずです。自分というものの下にシャア少佐という存在があり、いろいろな役割が存在している。だから、客体視して自分の行動を冷静に見られる。自分自身に対して有益な助言もできる。距離を持って物事を見られる」

 ピンチに陥ったとき「運のない男」と自嘲しながら、局面を一歩引いてみて、プラスに捉えられるかどうか。シャアの自嘲に学ぼう。

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