そもそも個人で情報は持たない──。議事録、そしてToDoは、共同所有する情報とすることで、会議の生産性を上げ、ToDoの実効性も増すようになります。
前回は、会議をプロジェクトの中でどのように位置づけるかについて、お話しました。
今回は情報共有の重要性について紹介します。普通いわれる情報共有は、「個人が持っている情報を組織に公開すること」を意味します。しかし、XM(エクストリームミーティング)では「そもそも個人では情報は持たない」ことを推奨しています。ここまでいうと、情報共有のイメージとは大分ずれていくので、共同所有(collective ownership)と呼ぶようにしましょう。
議事録ドリブン会議の方法をすでにお読みの皆さんなら、議事録を共同所有すべきなのは、もはや当たり前かもしれません。議事録は、いつでも誰でも、読んだり書いたりできなくてはなりません。
議事録ドリブンならば、たとえ会議が始まる前でも会議参加者はアジェンダを勝手に追加できます。会議の進行役も、会議前にそのアジェンダの優先順位を上げたり下げたりできます。また、すでに上がっているアジェンダであれば、議事録に意見を書き込むことで、会議前に議論を始めてしまうことができます。誰でも議事録を読むことができるので、その議論を事前に会議参加者は把握しておくことができるのです。
このように議事録を共同所有すると、会議の開始時点で議事録がある程度完成しているので、議論時間も短縮されます。トピックによっては、15分かかっていたものが30秒もかからずに終わってしまうことさえあります。劇的な生産性のアップですね。
会議中も議事録は共同所有されています。誰でもいつでも、誰かの意見を修正することができるのです。ディスプレイやプロジェクタで共有された議事録を見ながら、きっとこのような発言がみられることでしょう。
「さっき佐藤さんが言っていたのは、きっとこういうことなんじゃないだろうか。だから議事録の26行目は『六本木支店から』ではなくて『六本木支店へ』なんじゃないかな」
議事録ドリブンは、「会議とは議事録を共同で作成する作業」であると、会議の概念を再定義してしまいます。議事録は、会議前も会議中も、参加者全員の共同所有物なのです。
最近、ToDo管理ツールが流行っていますが、多くの場合、ToDoは個人の所有物になっています。しかし、ToDoは個人のものではなく、チームのものと捉えなくてはなりません。間違った方向へ進んだまま、大事なToDoを何カ月も握ってしまい、発覚したときには取り返しがつかないほど大きな問題になっていたという事態がよくありませんか? こうした問題は、ToDo管理が個人のレベルで行われていることによって発生します。
誰がどんなToDoを担当していて、どんな状態なのかを、プロジェクトのすべてのメンバーがお互いに見えるようにしましょう。そして、ToDoには担当者だけではなく、必ず確認者を置くことによって、デュアルチェックを働かせます。
人のToDoについて何かアドバイスすることがあれば、気兼ねなく意見交換ができる雰囲気作りをするといいでしょう。人の知恵を借りることによって、行き詰まっていた問題が一気に突破されることもしばしばあるからです。人間関係が良好ならば、アドバイスだけではなく、ToDoがあふれている人の仕事を代わりにやってあげてもいいでしょう。
議事録と同様に、「そもそも個人では情報は持たない」という考え方をします。しかし議事録と違うのは、作業自体は原則個人でやるものとして考えられていることです。その途中成果の情報や問題点、最終結果などについては常に共有しておかねばなりません。
しばしばその組織でしか通用しないジャーゴンと呼ばれる言葉が生まれていきます。言葉の意味をプロジェクトの中で共通にしていくことは、ミスコミュニケーションを防ぎ、円滑にプロジェクトを進めていくための必須条件です。
会議中も、しばしば言葉の定義が人によって異なるために迷走します。私自身も、30分議論したものの、実は言葉の定義が違っているだけでまったく同じことを言っていた、がっくり、という経験が10回はあります。そのためには面倒くさがらずに用語集を作りましょう。用語集は、会議中であってもメンテナンスするといいと思います。
ジャーゴンはチーム内でのコミュニケーションを円滑にするために必要なのですが、逆にチーム外の人には全くわけが分からず、新メンバーが入ってきても、会議の議論についてこられなくなります。この点をしっかり認識し、使う用語からは誤解を招きかねないものを避けておきましょう。
会議やプロジェクトの問題の多くは、「何か」が共有されていないことによって起こります。その「何か」のうち重要な3つを今回は紹介したわけです。
しかし、重要なのはこの3つだけではありません。特にプロジェクト全体のゴールやプロセスの共有が重要です。
と、考えてみるとよいでしょう。
さて、前回と今回で、プロジェクトを通して意識すべきXMのプラクティスを5つ紹介してきました。次回は、XMの15個のプラクティスの最後となる、仕事の進め方の思想について紹介します。
国際大学GLOCOM主任研究員、サルガッソー社長。サルガッソーでは、究極の会議を実現するためのツール「Sargasso XM」を開発している。「伝播投資貨幣」という概念の通貨「PICSY」の研究・実装に取り組み、個人ブログとしてPICSY blogを運営している。IPAの未踏ソフトウェア創造事業に採択(2002年)、同年度の天才プログラマー/スーパークリエータに認定。共著書に「NAM生成」「進化経済学のフロンティア」。
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