既存のサービスの不満な点を改良したい――CEEK.JP・吉田光男さん田口元の「ひとりで作るネットサービス」探訪

まだ大学生でありながら企業を経営し、かつメタ検索エンジン「CEEK.JP」や「はてブニュース」など、個人としてネットサービスの提供を行う吉田光男さん。既存のサービスの不満点を改良したサービスを自分で作ることにやりがいを感じるそうだ。

» 2007年01月30日 23時24分 公開
[田口元,ITmedia]
吉田光男さん

 「ひとりで作るネットサービス」探訪、第3回目はCEEK.JPをはじめ、さまざまな便利サービスをリリースしている吉田光男さんにお話を伺った。

 CEEK.JPは複数の検索エンジンからの結果を一覧で表示するメタ検索エンジン。このサイトが特に注目を集めたのは、CEEK.JPで「ニュース検索」が始まった頃だった。当時はまだGoogle Newsがようやく開始したところで、ニュース検索が盛り上がっているさなかに「1人の大学生がニュース検索を作っている」ということで注目されたのだ。それを発端に、はてなブックマークのニュースを自動分類する「はてブニュース」、共有のアクセスポイントを検索できる「Simple FON Maps」などをリリースしている。

 現在筑波大学の2年生の吉田さんが、次々とサービスを生み出していく秘訣はどこにあるのか。その仕事術について話を聞いた。

「競合サイトを作るのが好き」

 「競合サイトを作るのが好きなんですよ」、吉田さんはそう言って笑った。先日リリースしたSimple FON Mapsもその1つだ。

 FONは個人の無線LANをみんなが解放して共有しよう、というサービス。吉田さんはこのサービスに以前から注目していた。「出かけることが多いので、出先のアクセスにはすごく苦労するんですよ。だからアクセスポイント系のサービスには注目していました。特にFONは、みんながちょっとずつリソースを出し合って、みんなで便利になろう、というインターネット的なところがすごくいいなぁ、と思っていたのです」

 個人としても3台FONを所有している。それぞれ自宅、職場、実家に設置し、付近の住民やモバイラーのために無線LANアクセスを提供した。自身でも筑波から東京に来るときにはよく使っているという。そして、さらに使い込むためにFONが提供している「FON Maps」を使うようになる。このマップでは、どこでFONのネットワークが提供されているかを見ることができる。

 「ただ、これが重くて重くて……」なんとかならないだろうかと思案し、結局自分で作ってみることにした。ほぼ1日でコーディングを終了し、自身のブログで公開した。「必要なところはデータをキャッシュして、なるべく速く表示するように工夫しています」。こうした工夫が評価されたのか、ほかのブログや雑誌で取り上げられるなど、反響も大きかった。現在ではさらにバージョンアップを重ね、今ではGoogle Earthにも対応している。

 「リリースから1カ月ぐらいですが、1日3万ページビューぐらいはありますね。まずまずではないでしょうか」吉田さんは自身の達成についてそう話す。

メタ検索エンジンのCEEK.JP(左)とSimple FON Maps

「大学入試のため」にメタ検索エンジンを作る

 1日で作ったのはSimple FON Mapだけではない。はてなブックマークのニュースを自動分類する「はてブニュース」も1日で作り上げた。そうした技術はどこで身につけたのだろうか。彼のプログラミングとの出会いについて話を聞いた。

 「実は身体が弱くて、昔、病院に併設された学校に通っていたことがあったのです。その学校にPCがあって、ちょっと触って面白いな、と思ったのがきっかけでした」。その後退院し、家に帰るとPCがあった。「病院の学校で興味を持っていたので、家のPCを使ってBASICを触ったのが、初めてのプログラミングだったと思います」

 その後、中学に進学すると、幸運なことに地域のIT推進指定校となっており、ITに詳しい先生が1人派遣されていた。「先生が教えてくれるというよりも、先生が一緒に調べてくれる、という感じでしたが、その中で学校のWebサイトを作ったりしました。Perlを覚え、掲示板などのプログラムをダウンロードしてきて、いろいろいじったのもその時期でした」

 中学3年生になるとJavaScriptをいじり始める。「ほかの言語はコンパイラとかサーバーとかが必要ですよね。JavaScriptを選んだのはブラウザだけでプログラミングができたからです。でもたいしたものは作っていませんでしたよ。体重と身長を入れるとBMIを計算してくれる、とかそういうものでしたね」

 その後もプログラミングを続け、高校3年生でメタ検索エンジンを作ることになる。この検索エンジンを作った理由は「筑波大学のAC(アドミッションセンター)入試のため」。その成果が認められて入学した。「でも、プログラミングだけじゃないですよ。吹奏楽やバトミントンもやりましたよ!」と吉田さんは話す。

 なぜ検索エンジンだったのか。「もともと便利なソフトウェアを検索するサイトをつくってはいました。でもそれだけではなくて、Webも検索できるようなものが作りたかったのです。ただもちろんゼロから作れたわけではなくて、最初はネット上で公開されていたソースコードを基に、自身で改良を重ねていきました。もちろんこのソースコードを配布していた大学教員の方にも連絡をとってちゃんと許可をもらいましたよ」。その入試のための作品が現在のCEEK.JPになり、その後のニュース検索などに続いていく。

「優れた技術を持つ学生が、コンビニでバイトなんて……」

 現在は学生4年目なのに2年生。「卒業、ほんと、がけっぷちです(笑)」という吉田さん。大学生になってからもプログラミングを続け、フリーで開発を請け負うなど、忙しくしているうちにそうなってしまった。働いているうちに個人の限界を感じるようになり、2006年3月に有限会社のてっくてっくを設立する。

 「CEEK.JPでは個人でできることをやります。1日で作れるようなものですね。ただ、てっくてっくでは3〜5人でできるようなものにチャレンジしてみたいのです」会社は現在アルバイトも含め6名ほど。会社設立の手続きは全部自分で行った。「自分でやったことのないことについては自信を持って語れないし、説得力もない。会社を作りました、と堂々と言えるためには登記から自分でやりたかったのです」

 社員は自分と同じような学生を雇っている。「優れた技術を持っているのにコンビニでアルバイト、という人がすごく多い。それって何か違うな、と思っています」。技術を持っている人はもっと評価されて、もっと高いリターンを得るべきだ、というのが吉田さんの主張だ。

 リターンには2種類あります、と吉田さんは続ける。「1つはもちろん金銭的なもの。だからてっくてっくでは会社の利益よりも、従業員の給料を優先しています。またもう1つのリターンは名誉欲みたいなものだと思っています。ですから仕事はなるべく実績を公開してもいいものを優先して受けています。社員がこれをやったのは自分だ、と誇れるような仕組みにしたいのです」

ツールは「一般的な人が使うもの」に合わせる

 個人でもサービスを開発し、もう一方で会社も経営する。そんな吉田さんの仕事術について聞いた。「特別なことはしていませんが……」との前置きのあとに、使っているツールや開発環境、モチベーション管理などについて教えてもらった。

 使っているツールはなるべく「標準的なもの」。「ユーザーがどういう風に使うかを知らなくてはいけません。だから利用環境は極力、大多数の人に合わせています」。ブラウザはInternet Explorer 6、メールはOutlook Express 6を使うという。「テスト用にFirefoxなども使いますが、基本はなるべく標準です」。開発するときも、環境が限定されてしまうものには興味がないという。「ブラウザを限定されてしまうので、Greasemonkeyには全く興味がありませんね」

 情報源についても聞いてみた。「基本は自分の作ったツールを使っています。RSSリーダーもそうですし、ニュースサイトも自分の作ったものを見ますね」そのほか、Skypeのチャットはよく行う。「大学の面白い仲間とよくチャットします。話題は多岐に渡りますね。技術の話から、政治の話までいろいろです。みんな議論好きなんです」

 人と話すときはとりあえず反論してみる。その反論にさらに反論をかぶせてくるような人とよく付き合うようになるという。議論することによって新しい情報が得られると信じているからだ。「だから新しい情報を知ったときはとにかく人に話します。そこでの議論からまた新しい情報が入ってきますから」

 また気をつけているのは「決断を速くすること」。「人がなぜ迷うかというと、『ひょっとしてこの選択をする機会はもうないかもしれない……』と考えてしまうからだと思っています。でも僕は、チャンスはいつでもやってくる、と信じています。そう考えると迷うことがなくなり、決断も素早くなりました」

 読書にも貪欲だ。「最近はビジネス書をよく読みます」。吉田さんはそう言いながらカバンの中から数冊の本を取り出した。最近読んだ本は、「検索エンジンがとびっきりの客を連れてきた!」「シリコンバレー精神」「電波利権」「企画書は1行」などだ。しおりにはタイマー付きのものを利用している。「これがあるとあと何時間で読み終えるか、見積もりができるようになります」

タイマー付きのしおり
大量の裏紙を常に持っている

 ほかにもカバンの中に何があるか覗かせてもらった。目に付いたのは大量の裏紙。「いつでもメモができるようにしています。手帳なども色々試しましたが、裏紙が一番しっくりきますね。プログラムを作りながらでもメモします。アイディアは作りながら浮かぶことが多いので」

 モチベーションの管理についても聞いてみた。「やる気がなくなったら寝ます。ずっと寝ていると腰が痛くなるので、そろそろ起きるか、ということになり、作業に移る、ということが多いですね」

 1人で次々とサービスを立ち上げるスーパー大学生のモチベーション術はきわめて学生的なものだった(笑)。まだ吉田さんは22才。彼が卒業できるかどうかを心配しつつ、今後の彼の活躍を見守っていきたい。

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