「やっつけ仕事」しないようにするには?
コツ:スケジュールに“山”と“谷”を作る
【問題編】で、「勢いだけでは大きな仕事は乗り切れない」という話が出てきたように、勢いに任せて片っ端から仕事に取りかかっていくよりも、きちんと見通しをつけた上で、確実に仕事をこなしていきたい──と誰しもが思うものです。さもないと、締め切りに追われて「やっつけ仕事」をせざるを得なくなってしまうからです。
そもそも「やっつけ仕事」とはどんな仕事でしょうか? それは、山登りに例えれば、登頂ルートを地図で確認した上で臨むのではなく、何も見ずにいきなり登り始めるような取り組み方といえるでしょう。やみくもに登っていくのでは時間の見通しが立たず、ペース配分や持って行く食糧の量が決められませんから、遭難のリスクが高まります。
「やっつけ仕事」を招いてしまう原因は、「まず、見通しをつけなくては」と思いつつも、思うように見通しがつけられないところにあります。いくら地図を隅々までチェックしたところで、具体的に何をすればいいのかが分からなければ、時間ばかりが過ぎていき、「こんなことをしているくらいなら、さっさと登り始めてしまった方が早い」ということで、動き出してしまうのです。
そして、途中で「準備」が足りないことに気づくのですが、もはや後戻りできないポイントに来てしまっているため、そのまま進むほかなくなります。つまり、望ましくない方法で続けざるを得ない状況に追い込まれるわけです。
仕事に限らず、どんなことでも計画よりも実行の方がおもしろく感じられるものです。例えば、スポーツなら、延々と作戦会議で戦い方について話し合うよりも、実際にフィールドに出てシュートを決める方が気持ちがよいですよね。テレビゲームなら、キャラクターの「能力値」の設定よりも、目の前の敵をやっつける方がより楽しいはずです。また、ドミノ倒しはこのギャップが非常に大きく、ドミノが一気に倒れていくことで得られる爽快感に比べたら、時間をかけてドミノを注意深く並べる緊張感は苦痛とさえ感じられるでしょう。
仕事においても、段取りをきちんと考えることに比べれば、実際に手を動かして何かを作っていく作業の方がやりがいを感じられるでしょうし、それが実質的にスケジュールを進めることにもなるため、「早く走り出したい」という衝動に駆られるわけです。
とはいえ、思いついた途端に勢いで始めて、その勢いのままに終わらせてしまえるような小さな仕事であればよいのですが、やり始めてみたらとても勢いだけでは終わらないことに気づけば、そこで立ち往生してしまいます。つまり、継続的に“快感”が得られなくなるため、それ以上動くことができなくなるのです。いわば、仕事における“遭難状態”です。
それゆえ、「走り出したい気持ち」をこらえて、まず“コース”を確認して、攻略プランを練ることが重要になってきます。といっても、ある程度“コース”のことが分かっていなければ見通しも立ちませんから、下見がてら少しだけ走ってみて、そこで得られた手応えを材料に攻略プランを練るのがよいでしょう。
具体的には、3分なり5分なり時間を決めて、少しだけその仕事に取りかかってみることです。そして決めた時間が過ぎたらすぐにやめます。この程度では仕事の進捗を稼ぐことはほとんどできませんが、代わりにその仕事を進める上で必要なことは何か、あるいは不要なことは何か、がある程度分かるはずです。
これを手がかりに“作戦”を立てるようにします。例えば、サッカーで相手チームの弱点を1つでも見つけたら、そこに照準を絞った作戦を立てて試合に臨み、作戦通りにシュートが決まれば、やみくもに攻めてシュートを決めた時よりも、地に足が着いた満足感が得られるでしょう。たまたま決まったのではなく、意図的に決めたという実感が得られるからです。
このように、実際のプレイを可能な限りリアルにイメージしながら“作戦”を立てることで、張り合いが生まれます。段取りを考える作業に彩りが加えられるのです。
「ピタゴラ装置」(正式名:ルーブ・ゴールドバーグ・マシン)で、ビー玉が様々な趣向を凝らした仕掛けの中を転がっていくのを見たとき、その意外な動きが楽しいと感じられるのは、その裏に緻密な計算があるからだと考えられます(「ピタゴラ装置」の例)。
とは言え、具体的なイメージを元に段取りを決めても、うまくいかないことがあります。それは、段取りを決めたことで安心してしまう場合です。完璧なスケジュールを立てると、それだけで仕事が終わったような気になり、実行に移すことに興味を持てなくなってしまうのです。つまり、見通しがクリアになりすぎると、道のりが平坦になるため、逆にやる気が削がれてしまうことがあるわけです。
そこで、段取りを決める際には、「2つの異なる仕事を交互に行う」という“山”と“谷”を盛り込むようにします。
例えば、「完了させなくてもよいタスク」と「完了させなければいけないタスク」を交互に並べるという方法です。こうすることで、緊張を強いられるタスクと、リラックスして取り組めるタスクという起伏が生まれますので、飽きることなく続けられます。他にも以下のような組み合わせが考えられます。
特に最後の「やったことがあるタスク」は、安心して取りかかることができ、楽に進めることができるがゆえに、飽きやすいという特徴があります。こういったタスクばかりが目の前にあれば、つい油断して、結局時間に追われる状況に陥ってしまうリスクがあります。
逆に「やったことがないタスク」は、きちんと終えられるのかどうかという不安がつきまといますから、「早く手をつけなければ」という緊張を強いられます。そして、このようなタスクが連続していれば、「これが終わってもまだ楽にならない」という閉塞感を覚えることになり、現実逃避の誘惑に駆られやすくなります。もし、そのタスクの後に「やったことがあるタスク」が控えていれば、「これが終われば楽に片づけられるいつもの仕事が待っている」ということで、やる気も湧いてくるでしょう。
このようにスケジュールに“山”と“谷”を作ることは、人の呼吸に似ています。息を吸うには、息を吐く必要がありますし、逆に息を吐くには吸う必要があります。吐いてばかりいれば、すぐに息切れを起こしてしまうでしょう。
そう考えると、仕事というのは、ある意味で“有酸素運動”であるといえます。そうであるならば、規則正しい呼吸に加えて、十分な時間を取ってストレッチ体操や準備運動といった「段取り」が欠かせないのも合点がいくでしょう。
仕事を楽しくする研究日誌「シゴタノ!」管理人。日々の仕事を楽しくするためのヒントやアイデアを毎日紹介するほか「言葉にこだわるエンジニア」をモットーに、Webサイト構築・運営、システム企画・開発、各種執筆・セミナーなど幅広く活動中。近著に『スピードハックス 仕事のスピードをいきなり3倍にする技術』『「手帳ブログ」のススメ』がある。
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