ダイキン工業はなぜ「Thunderbird」を選んだのか

エアコンで有名なダイキン工業では、企業のメールソフトとしてThunderbirdを導入し、約1万台のPCで使っている。「社員のITリテラシーは高くない。オープンソース大好きというわけでもない」という同社が、なぜThunderbirdを選んだのか――。

» 2007年03月09日 21時58分 公開
[吉田有子,ITmedia]
「自社にとって“ゲスト機能”は必須だった」と話すダイキン工業IT推進室IT企画担当課長の小倉禎則氏

 エアコンで有名なダイキン工業では、メールソフト「Thunderbird」を社内の約1万台のPCで使っているという。3月9日にMozilla Japanが主催したイベントで、同社の小倉禎則IT企画担当課長が選択の理由を明かした。

 ダイキン工業は、一般消費者向け製品としてはエアコンが有名だが、業務用にはエアコンのほかにも産業機械用油圧機器などを生産しているメーカー。大阪の本社のほか、東京に支社、地方に工場を持ち、欧米や中国などに海外事務所やグループ会社がある。

 ダイキン工業では1995年から電子メールを全社で利用するようになったが、当時は個人がノートPCを持ち歩くのも現実的ではない時代。出張が多い社員は、出張先のオフィスにある共有PCで自分宛てのメールを読む必要があった。そこで、共有のPCでも個人のメールの読み書きを可能にする「ゲスト機能」を自社開発し、当時社内で利用していたメールソフトに付加した。その後、メールソフトを別のものに移行してもゲスト機能は存続し、社員にとって“なくてはならない”ものになったという。

自社に“なくてはならない”ゲスト機能を自社開発で補う

 2004年にメールシステムを移行することになったときには、ゲスト機能の代わりにWebメールを使うことも検討した。しかし、メール流量やサイズの増加を見込むと「サーバに保管するメール容量がばく大なものになってしまう」と考えて却下。そのときに出会ったのがThunderbirdだった。

 Thunderbirdにはゲスト機能のようなものはないが、「個人プロファイル」という概念がある。ユーザIDやパスワード、個人アドレス帳などを保存しているファイル群だ。これを社内のサーバに保存し、出張先のPCからも取り出せる「ローミング機能」を自社で開発することにした。このように足りない機能を補う自社開発ができる点は、オープンソースならではのメリットと話す。

Thunderbirdで個人プロファイルをローミングする

 しかし、開発は簡単には進まなかった。もともと、Thunderbirdは個人プロファイルを外部サーバに保存することを前提として開発したソフトではない。ローミング機能が常駐していると、Officeなどのアプリケーションの起動に時間がかかる、メールをプリントアウトするとなぜかプリンタの用紙サイズが変更されてしまう――トラブルを1つずつ、直接Mozillaとコンタクトしたり、運用でカバーして解決していった。

 2005年10月に全社的なThunderbirdの利用を開始。2006年11月時点で、社内の約9700台のPCにThunderbirdを導入している。「自社になくてはならないゲスト機能を含め、以前のメールソフトとほぼ同じ使い勝手を実現できた」と小倉氏は話す。

 今後の課題は海外展開だ。現在、海外のグループ会社では、大規模なところではLotus NotesやMicrosoft Exchangeを、小規模なところでは日本と同じメールシステムを利用している。これをグループ全体で統一し、システムの入れ替え時に合わせて日本と同じシステムにしていく予定だ。

 最近では、中国の関連会社にこのシステムを構築した。ローミング機能をThunderbirdの中国語版に導入したという。「2006年10月から850人で利用している。現在のところトラブルはないので、うまくいったと考えている」

 小倉氏は「まず“コスト圧縮ありき”でオープンソースのThunderbirdを選んだわけではない。結果的にローミング機能を自社開発で補えたのは、オープンソースだったから」とそのメリットを話した。

 1995年には個人がノートPCを出張で持ち歩くことは考えられなかったが、現在ならゲスト機能にこだわらず、個人のノートPCを持ち歩いて使えばいいのではないか――これについては、現在では別の理由があると小倉氏は答える。「現在ではセキュリティの観点から、PCは原則として持ち出さないことになっている」

 ただし、将来的にずっとThunderbirdを使い続けるとは言い切れない。IT関連業種ではないダイキン工業では、ユーザーのITリテラシーは高くないし、自分から勉強をしてくれることも期待できない。Thunderbirdで評価の高いスパムメールの学習機能も使いこなせないユーザーがほとんどだという。

 「ソフトウェアに余計なボタンが付いているだけで、社員はとまどってしまう。一般にソフトウェアをインストールさせるとき、カスタマイズで不要なボタンを消せる場合は、そうしてから渡している」と小倉氏は苦心を話した。

 Webメールを使う場合と、Thunderbirdのような専用クライアントを使う場合を比べると、ソフトウェアのインストール1つをとっても負担になる。大企業なので、サポートを必要とするPCの台数も多いからだ。PC1万台にあるソフトをインストールする場合、99%は成功し、残りの1%だけが失敗しても、全社では100台分のサポートが必要になってしまう。

 Webメールの機能強化やHDD価格の下落に伴い、今後はWebメールに乗り換えるという選択肢があるのではないか、との質問には「3〜4年後には、PCがシンクライアントになっている可能性もある。次のシステム交換時に機能的に勝っている方を選ぶだけ」と答えた。

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