YouTubeが業務システムに活用される日――Googleの考える「Enterprise2.0」

Googleの考える「Enterprise2.0」とは――。GoogleサーチアプライアンスやGoogle Appsなど、Googleの企業向けプロダクトに携わった米Googleのケヴィン・ゴフ氏は「YouTubeも業務システムに活用できるかもしれない」と語った。

» 2007年06月07日 23時16分 公開
[鷹木創ITmedia]

 「YouTubeだって業務システムに活用できるかもしれない」。GoogleサーチアプライアンスやGoogle Appsなど、Googleの企業向けプロダクトに携わる米Googleのケヴィン・ゴフ氏は、6月7日に都内で開催した説明会で、コンシューマ向けプロダクトの技術を企業向けプロダクトに転用するGoogleの方針を語った。

オールウェイズβで、企業向けプロダクトが任せられるのか

 「企業内だろうが、家庭だろうが、アプリやツールを使っているユーザーが別々なわけではない。ユーザー側からすれば、会社も家庭も同じように使えるアプリがいいはずだ」。例えば、会社でプレゼンテーションの動画を共有するようなとき、よく分からない企業向けのシステムを利用するより、普段から慣れ親しんでいるYouTubeのインタフェースや機能を活用したシステムのほうが利用が簡単だ――というわけだ。

 企業向けプロダクトでGoogleと聞くと、違和感を覚える人も少なくない。GoogleはWeb2.0の典型的な企業で、そのプロダクトもβ版がほとんど。しかも、このβ版は、必ずしも将来的に正式版にアップデートされるということを示していない。いわゆる“オールウェイズβ”と呼ばれる手法である。常にユーザーの意見を取り入れ、システムをその都度改修するといういい面もあるが、サービスがダウンした際に「まだβ版だから」と言い訳に利用されることもないわけではない。

 そんなオールウェイズβで、企業向けプロダクトが任せられるのか――。Googleの考えはむしろ逆だ。ゴフ氏は「今まで企業向けのシステムは、何か不都合なところがあっても改修されるまで時間がかかることが多かった。Googleはコンシューマ向けプロダクトでユーザーと直接対話できるため、企業向けプロダクトであっても不具合が発生すればすぐに修正できる」という。

「コントロール」ではなく「チョイス」

 Googleはもともとコンシューマ向けの検索サイトから始まった。Googleが創業した1998年当時、インターネットの普及にあわせてサービスを拡大しつつあった各種ポータルが自社のWebページに検索以外の機能やサービスを追加していったのに対し、Googleは検索フィールドのみのシンプルなインタフェースが印象的だった。

 「家庭で日ごろ親しんだ単純で簡潔なインタフェースであれば、企業でも同じように利用できるはず。システム導入時のトレーニングコストも減少するだろう」(ゴフ氏)。トレーニングコストが減少する以上に導入費用はもっと減少する。Googleの試算では、一般的なメールシステム、アンチウイルスシステム、ワープロや表計算ソフト、ストレージなどを合計すると3785ドル。これをGmailやGoogle Docs & SpreadsheetsなどのGoogle Appsに切り替えると50ドル。導入時のトレーニングなどを含めても87ドルにとどまるという。

既存システムだと構築費用に3785ドルかかるが、Google Appsだと87ドルで済むという
検索アプライアンスを使った企業内検索システムの検索画面。社内ポータルやディレクトリなどのデータベースから検索できる
Google Appsの歴史。Gmail、Google Talk、Google Calendar、Google Docs & Spreadsheetsなどなど

 「もちろん、すべてのソフトウェアがWebアプリに代わるとは思っていない」(ゴフ氏)。Google Docs & Spreadsheetsと比較すれば、マイクロソフトのWordとExcelの方が、まだまだ多機能だ。しかし、経理、事務、営業といった部門別に重要視するソフトや機能は異なる。すべてのスタッフがWordとExcelを同じように使いこなす必要はないのだ。全社員に向けて同じソフトウェアを一括して導入する必要があるのか――というのがGoogleの主張なのである。「Google Appsは必要な機能だけを導入できる。(全部Googleのプロダクトを使えと)コントロールしたいのではなく、必要なアプリをチョイスしてほしいのだ」

Google Appsは便利だが……

 現在、Googleでは全世界で7000の企業顧客を抱えている。各国の内訳は公表していないが、米国や日本など内部統制対策が盛んな国々にも顧客の企業があるという。

 Googleによれば内部統制のトレンドは、メールなどのアーカイブを企業内部で保管すること。Googleのサーバ内にメールなどを保存するGoogle Appsは一見、こうしたトレンドに反するようにも思える。実際の利用例でも「Google Appsにアーカイブサービスを組み合わせて、アーカイブ自体は自社でも管理するケースが少なくない」。利用する企業側としてみれば、「Google Appsはコストも抑えられるし、便利だけれども、内部統制の証拠となり得るアーカイブの管理はGoogleだけに任せてはおけない」といったところが本音なのだろう。

 とはいえ、コンシューマ向けプロダクトから企業向けプロダクトへの転用の動きは加速している。先日発表されたばかりのGoogle Gearsも「企業向けシステムに利用されることを前提に開発した。オープンソースの技術なので、Google以外のプロダクトを含む業務用Webアプリケーションをオフラインで利用できるようになる」という。今後、Googleの考える「Enterprise2.0」は企業の生産性にどのように関わっていくのだろうか――。

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