インタビュー
» 2007年10月17日 13時44分 公開

すごい人たちに追いつきたい──MagicSketch・浜本階生さん田口元の「ひとりで作るネットサービス」探訪(2/2 ページ)

[田口元,ITmedia]
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自分はWebから取り残されていた、このままではいけない

 「合唱部にのめりこんでいるときは見えなかったのですが、あらためて社会人になってネットを見てみると大きな変化が起きていることに気づきました」。当時アルバイトをしていた会社から誘われて就職した浜本さんは、1人でWebサービスを開発しなくてはいけない立場に置かれた。そうした立場に置かれて初めて、強い危機感を覚えた。

 個人がインターネットでできることといえば、自分のホームページをつくることぐらい……。そう思っていた浜本さんは、ネットで起きている変化を目の当たりにしてショックを受けたのだ。ソーシャルブックマーク、ソーシャルネットワーキング、ブログ、そして数々のネットサービス──。自分はWebから取り残されていた、このままではいけない、強くそう思った。

 「すごい人がたくさんいる。追いつかなくちゃ」。そう決意した浜本さんは猛烈に勉強した。第一線で活躍している開発者のブログを読みあさり、開発者コミュニティの掲示板をのぞいては、そこで交わされている発言の1つ1つを理解しようとした。

 一通り勉強が終わると自宅にLinuxサーバを設置した。まずはサービスを作ってみようと思ったのだ。そのころGoogleのGeocodingが日本語の住所に対応したと聞いた。その機能を使って何かができないか、と思い立った。入力した住所のまわりにあるグルメ情報を引っ張ってくるサービスはどうだろうか? 「自宅のまわりのラーメン屋には全部行ってみたい、と常々思っていたので」。開発の経緯を浜本さんはそう語る。

 当時グルメサイトでAPIを提供していた「食べログ.com」のWebサービスを使って作ったのが「EatSpot」だ。住所を入力することでその周りの地図が表示され、レビューの点数、価格帯などで行きたいお店を絞り込んでいくことができた。このEatSpotは価格コムのWebサービスコンテストに出品し、見事最優秀賞を受賞した。

「食べログ.com」のAPIと、GoogleマップのAPIを使ったEatSpot

 Webサービスの作り方の要領を得た浜本さんが、次に作ったのは「NativeChecker」だった。これはWeb検索のヒット数を利用して英文を校正していくサービスだ。日頃から英語の勉強を心がけている浜本さん自身にとって必要なサービスだった。開発にはYahoo! JAPANの検索APIを活用した。このサービスはYahoo! JAPAN WEB APIコンテストに出品してWeb Designing賞を受賞した。

 ほかにもWikipediaをもっと便利に検索するためのツール「Sensr」や、2chの書き込みからいわゆる「コピペ」を自動的に抽出するサービス「2コピ」も開発した。これらのサービス開発に共通しているのは、「自分自身が使うツールであること」。特に現在は英語の習得に特に力を入れており、NativeCheckerをよく使うという。

最新の自信作、アイデアスケッチをビジュアルに書き留める「MagicSketch」

 そして最近Ruby on RailsとFlex Builderで作り上げたのが「MagicSketch」。これはブラウザ上で手軽にアイデアスケッチを書き留めることができるツールだ。

 「考えていることは言葉や図で言語化することが大事だと思っています。言語化して初めて本当の意味で理解できると思うのです」。そう主張する浜本さんは、今までメモ帳に自分のアイデアをスケッチしていた。しかしそうしたスケッチはあまり見直すこともなく、その場限りになってしまっていた。いつでも見直せるようにWeb上でこうしたアイデアを貯めておけないだろうか……。そう思ったのが開発のきっかけだった。

鉛筆ツールで適当に線を描いていくと、直線になったり、四角になったり、丸になったり……。MagicSketch

 開発にあたっては、ほかのツールもひととおり見てみた。しかしどうも丸や長方形といった部品を配置していくようなツールが多く、「手書きのように紙にすらすらと書いていく感覚」を再現しているものがなかった。

 そこでMagicSketchでは「鉛筆で紙に描いていく感じ」を大事にした。丸や長方形といった図形を選択して配置するのではなく、すらすらと書いていくとそれが図形として認識されるというインタフェースだ。丸っぽいものを描くと自動的に丸として認識される──という仕組みを作り上げた。

 「特に苦労したのは線の自動結合機能です。なかなか自分が思ったような挙動にならなくて……」。浜本さんはMagicSketch開発で苦戦した点をそう教えてくれた。自由に線を描けるのはいいが、くっついてほしいところがくっつかなかったり、逆にくっついてほしくないところでくっついてしまったりしたという。「微妙な調整を繰り返すしかなかったですね」。細かい調整を積み重ねていくことで、自分の思い通りの動きをするようになった。

 また、結合した線は一箇所を引っ張ると周りの線もそれに合わせて引っ張られるが、強くマウスで線を「振ると」結合が解除されるようにもなっている。「線を離したいときは、やっぱり強く引っ張る操作が直感的ですよね」

 テキストの配置についても工夫を凝らした。「PowerPointで曲線の近くにテキストを配置すると、線にかぶっちゃったりしますよね。MagicSketchではそうならないようにテキストの最適配置を行っています」。テキストを配置すると周りの線を認識して、そこにかぶらない位置に自動的にテキストを配置する。もちろん線を動かすと、それにもかぶらないようにテキストも自動で再配置される。

 こうして作ったアイデアスケッチはブラウザ上で投稿・共有することができる。またほかの人のアイデアをもとに、自分なりのアイデアスケッチを作っていくこともできる。そうしたアイデアは「子孫」として登録されるため、自分が描きとめたアイデアの影響力を知ることもできる。

 Ruby On RailsもFlex Builderも使うのは初めてだったが、書籍やブログを見ながら1カ月間、毎週末を使って作り上げた。描画のUI周りはFlex Builderを使って作成。会員登録やそのほかのWeb周りのシステムは「Ruby On Railsのおかげで驚くほど簡単に作ることができました」と教えてくれた。

「メモは考えの言語化。移動中にするよりも机の上でじっくりやりたい」

 次々に自分のアイデアをカタチにしていく浜本さん。彼が良く使っているツールについて聞いた。ブラウザはFirefox、メールはThunderbird、よく使うFirefoxの拡張機能は「SBMカウンタ」「Firebug」「IETab」「Live HTTP Headers」だという。SBMカウンタは、今見ているページの影響力を知るのに必須だという。またFirefox標準機能であるスマートキーワードもよく使うという。

 デスクトップで使っているのはCLCLBabylon。CLCLはクリップボードの履歴を保持し、いつでも好きなときに呼び出すことができる常駐ソフトだ。「開発中には必須です。クリップボードで直前のものしか保持できないと全く使い物になりません」

 またBabylonは気になる単語があったらさっとその意味を調べるために使う。英和辞書・英英辞書・英類義語辞書・国語辞書を入れているという。特によく使うのは英語の類義語辞典。これは英単語の意味を調べるというのではなくて、その単語をどれだけ理解しているかのチェックに使う。「英単語を調べる前にその単語にどういった類義語があるかを考えてみます。そこでぱっと思いつかないとまだまだ理解が足りないということですから」

 ブログはやっていない。いや、正確には「やっていた。」浜本さんはしばらくブログをつけていたが、自分が思っていることを言語化する難しさに気がついた。「何かを説明するのは簡単です。でもそれがなぜそうなっているのか、もっと深い考察を表現するためにはまだまだ力が足りないと気づいたのです」

 バッグに入っているのは「Advanced/W-ZERO3[es]」と、らくがき帳ぐらい。W-ZERO3にはPocketPuTTYを入れてSSH端末として使っている。サーバの稼動状況のチェックやもしものときのサービスの再起動などに便利だという。

 らくがき帳はメモ用紙だが、移動中にメモするようなことはしないという。「メモは考えを言語化する作業です。僕にとってそれは実に高度な作業なのです。そんな高度なことは移動中にするよりも机の上でじっくりやりたいのです」。移動中は景色を見たり、中吊り広告を眺めたり、「移動自体を楽しむようにしています」という。

 やる気が出なくなったときは近所の温泉をめぐる。「パソコンとは全く関係ないレトロな環境に浸り、ボーっと何も考えないでいるとリフレッシュできますよ」自宅の近くの銭湯を近い順にめぐっているという。

 浜本さんの名前、「階生(カイセイ)」には「階段を一歩ずつ上がっていくような着実な人生を」というご両親の願いが込められているという。「すごい人たちに追いつきたい──」。日々勉強する浜本さんは着実に「すごいエンジニア」への階段を上っているようだ。

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