数年前からリスク管理などの側面から重要視されているメンタルヘルスに比べると、メタボリックシンドロームについて具体的な対策を行っている企業はまだ少ないようだ。とはいえ生活習慣病のリスクは無視できない。その対策に社をあげて取り組んでいる企業の事例を見てみよう。
生活習慣病やその予備軍であるメタボリックシンドロームを防ぐには、当然のことながら生活習慣の改善がカギとなる。特に内臓脂肪が要因となるメタボリックシンドロームを防ぐには、「食習慣」と「運動習慣」を見直すことが有効とされている。仕事がら一日中座りっぱなし、残業が多く食事の時間が不規則になりがち……。まずは、そんな社員のために、産業医と協力しつつ改善活動を進める企業の事例をご紹介しよう。
システムの運用・構築を行っているH社では、健康管理センターに常駐する産業医との協力体制を強化。食事や睡眠の時間など生活習慣が不規則になりがちな「長時間残業者」を中心に、社員への個別指導を実践している。
一般にIT企業では労働環境が問題になることが多い。H社では、社員の過重労働などに以前から問題意識を持ち、自己の健康管理を徹底するための教育・啓発活動や長時間残業の縮小など、労働安全・衛生の向上に努力してきた。定時退社日の設置や日曜出勤の禁止、年休の取得推進などにも積極的に取り組んできたが、業種の性質上、すべての社員が残業時間を短縮できるわけではない。そこで、力を入れているのが「長時間残業者検診」だ。
これについては、2006年4月の労働安全衛生法改正によって長時間労働者への医師による面接指導が義務付けられる以前から自主的に行ってきた。また、併せて血液検査を行うなど、定められた以上のきめ細かな対策を行っている。
2003年から健康管理センターを設置。以降、常駐の医師による健康診断、メンタルヘルスケア、メタボリックシンドロームを含む生活習慣病の指導などを実施しているが、その背景には、平均年齢が比較的低い会社であることへの配慮もあるという。
「若いときというのはムリをしがち。20歳代、30歳代から産業医の先生の指導をしっかり受けていれば、10年後、20年後にも健康でいられるのでは……。そういう長期的効果も狙っています」と担当者は語る。
考えてみれば、病院にいってもお医者さんとじっくり相談するということはあまりない。会社に居ながらにして産業医とじっくり話をし、直接アドバイスをもらう機会が得られることは、自身の健康や生活習慣の改善に対する意識を高めるのに非常に効果がありそうだ。
H社の産業医によると、メタボリックシンドロームを予防するためにビジネスパーソンが注意すべきポイントは残業後の食事だ、と指摘する。
「残業がある場合でも、夕方6時、7時くらいにしっかりした夕食を取ること。もし残業が終わったあとに口寂しいのであれば、油ものを避けカロリーの少ないものを少量食べる。夜にものを食べるなとはいいません。ただ少しタイミングを考えてほしい。深夜に食事をとって間を置かずに寝るというのが、いちばん良くないのです」
もっともな話ではあるが、こういったアドバイスをもらうともらわないのとでは、食に対する意識に差が出てくるのは必至だろう。
また、企業によっては社員食堂を利用して社員の食に対する意識を高めるための取り組みをしているところもある。その方法はさまざまあるが、以下にその一部を紹介する。
社員食堂の担当者からは、「独身者や単身赴任者が多く、一日の栄養は社員食堂でとるという社員も多いので、メニュー作りには気を使います。社会的に健康に関する意識が高まっているためか、社員からヘルシーなものを出してほしいという要望も増えています」という声も。毎日の食事が健康に及ぼす影響は大きい。会社に頼らずとも、自身でしっかり意識して規則正しく、バランスの良い食事を心掛けたいものだ。
「運動」というと、「時間がないからできない」と、はなからあきらめてしまうことも多い。福利厚生の一環として社内にランニングマシンやトレーニング機器など設置する企業もあるが、着替えが面倒、休み時間には混み合って活用できないなどといった理由で十分に活用されないケースも多いようだ。
そんな中、「歩いて出社の日」を設ける、ランチタイムに「ストレッチ教室」を実施する、階段を使ったビル内移動を推奨する「2up3down運動」を実施する、歩数計を支給して意識的に歩くイベントを実施するなど、ユニークな取り組みをする企業も。一見効果を疑うようなものもあるが、「運動習慣を身につける」という視点で考えると、日常的に無理なくできるこれらの取り組みは、非常に有効といえるだろう。
専門家によれば、内臓脂肪を落とすためには、一度に激しい運動をするよりも、継続して運動をする習慣を身につけることが大切だという。トレーニングや水泳だけが運動ではない。先の企業での取り組みのように、ちょっとした時間でできることを見付けて日々継続することから始めてみてはいかがだろう。