シャンプー、カップ麺、システム手帳、ボールペン……あなたが“リフィル(詰め替え)”をするのはなぜだろう? 「減ったから足さなきゃ」というだけでなく、自分の心も満たしてくれる、そんなリフィルについて考えてみた。
著者プロフィール:郷 好文
マーケティング・リサーチ、新規事業の企画・開発・運営、海外駐在を経て、1999年よりビジネスブレイン太田昭和のマネジメント・コンサルタントとして、事業戦略・マーケティング戦略、業務プロセス改革など多数のプロジェクトに参画。著書に「ナレッジ・ダイナミクス」(工業調査会)、「21世紀の医療経営」(薬事日報社)、「顧客視点の成長シナリオ」(ファーストプレス)など。現在、マーケティング・コンサルタントとしてコンサルティング本部に所属。中小企業診断士。ブログ→「マーケティング・ブレイン」
最近私がもっとも愛用している文具は、パイロットの多色ゲルボールペン「ハイテックCコレト」と、Coated Design Graphicsのスリム手帳である。両者に共通している特徴は、“リフィルができること”。ハイテックCコレトには替え芯が、スリム手帳には挿し込み式のリフィルメモが販売されている。
ゲルインキの書き味の良さでファンが多いハイテックCシリーズ。ハイテックCコレトは、好みのボディと替え芯を組み合わせて多機能ペンが作れる。全15色のリフィルが、3種類の太さ(0.3/0.4/0.5ミリ)から選べて、自分だけの一品に仕立てられるのがいい。私の定番色はブルーブラック、チェリーピンク、パープルで、いずれも0.3ミリ。3色用の本体ボディは157円で、リフィルは各105円だ。
ハイテックCコレトをカチャカチャ鳴らして、Coated Design Graphicsの手帳にメモやアイデアを書く。インクがなくなる。リフィルを買いにゆく――このサイクルが確立している。
ふと、「リフィルって、気持ちにも、ビジネスにも、環境にもいいんだな」と思った。自分に馴染み、リフィルをリピートすることが楽しい……そんなリフィル文具を探してみた。
「Kawa-pen(カワペン)」は、筆記具そのものをリフィルにする、ペンカバーという発想。お気に入りの筆記具にかぶせて使うペンカバーである。皮製なので使えば使うほどに手に馴染んでくるのがミソ。付属のペンは長さ140ミリ、直径8ミリだが、中に入れるペンはお気に入りのものを選びたい。
多色展開も個性的だ。私は持ち手がイエローで、キャップがチョコ色というコンビネーションの“バナナ”が気になった。Aging(エイジング)の製品で1260円。
「L'Atelier des Tuileries(ラトリエ・デ・チュイルリー)」は、パリでは定番アイテムと言われる文具で、いつか使いたい憧れのノート。赤と黒のレザーカバー1枚に、皮ひもだけという潔いデザインが素晴らしい。
皮ひもを背で十字にクロスさせて、用紙を留めるスタイルが特徴だ。使用後はひもを蝶結びにしておく。ノートサイズはLLからSまで4種類あり、LLは1万4700円、Sは6090円。専用リフィルもあるが、お好みの用紙の真ん中に穴を開けても使えるだろう。
「AQUARELLE(アクアレール)」は、「トラベルボックス」とも呼ばれる通り、持ち運びが可能な水彩絵の具パレット。10色の固形透明水彩絵の具と丸筆1本がセットになっている。
固形絵具は好みの色を、画材店で補充できる。筆の長さは90ミリと短めだが、こちらも入れ替え可能。小さなスケッチブックで、ちょっとスケッチするのにぴったりである(筆者はマルマンのB6スケッチブックを使っている)。米国製で5670円。
ハイテックCコレトには「自分だけの一品を作る楽しさ」がある。Kawa-penやL'Atelier des Tuileriesは、使い込むほどに味わいが出る。アクアレットで自分のテーマ色を揃えるのは“自分を表現すること”に通じる。
もちろん経済性(オトク度)は見逃せない。「リフィル=経済性でしょ」とあっさり言う人もいる。例えば、スターバックスでは「本日のコーヒー」は100円でリフィルしてくれる(あまり知られていないが)。「スタバではグランデを買え!」という本が売れているが、私に言わせれば「スタバではリフィルをしろ!」。なぜなら、リフィルの方が冷めずに温かいコーヒーを飲めるから。経済性のリフィルとは、ズバリ「おかわり」という意味である。
エコなリフィルもある。ある米国の調査機関の研究によれば、同じ500ミリリットルの容器で比較すると、リフィル可能なガラスコップは原価16.9円、使い捨てガラスコップは7.7円、PETボトル11.3円、アルミ缶16.9円であり、リフィルガラスコップを20回使えば1回当たり0.8円という試算が示されている。だがたいていの人にとって、エコな行動の原動力は緻密な計算ではない。カップ値引きが何回で元が取れると考えて、1200円のタンブラーをスタバで買わない。「おトクな専用リフィルで、しかも“罪滅ぼし”ができる」から買うのである。
経済性もあり、エコもある。だがそれだけではない。リフィルをするときの心の動きを考えてみよう。
単純に“減ったから足さなきゃ”という日用品は、「なくなったら困る」というリフィルに過ぎない。しかし、文具のリフィルは違う。文具をリフィルするときは持ち主が文具に語りかけ、文具はそれに答える。「よく頑張ったね、よく使ったな、少し成長したかな」「減っちゃったね、満たしてあげるよ」――文具のリフィルには心を通わせる仕掛けがあるのだ。
しかも、オーダーメイドより遥かにお手軽な価格で自分の好みが実現でき(限られた範囲だが)、「満たしてあげる」ことで文具とますます昵懇(じっこん)になる。文具のリフィルとはそんなプロセスなのである。
昵懇の関係を長持ちさせるアドバイスをしよう。まず「リフィルの選択肢を多く持つ」。ハイテックCのリフィルには「15色×3種の太さ」というバラエティの豊富さがある。選択肢は多いほどチョイスは楽しい。ある色に飽きたら違う色に乗り換えられる。
2つめは「リフィルのコミュニティを作る」。ハイテックCシリーズには「ハイテックCスリムスリフィル」(210円)という金属芯の替え芯があり、パイロット以外の市販の多機能ペンボディにもマッチするという話が広まった(参照リンク)。ラミー「LAMY 2000」やロットリング「 4 in 1 Imput」といった高級輸入ペンにハイテックCを入れて“自作ハイブリッド”を楽しむコミュニティが生まれた。リフィルの標準化で、他社相乗りの選択肢が広がれば、業界全体が潤う。
3つ目は「ボディを交換させる」。別名「マグカップを売れ」という販促である。スタバで10月末までハロウィンデザインのマグを売っていたように、季節感と限定でマグを売る。器に季節性や希少性を持たせる策だ。ハイテックCのボディにも秋モデルや春モデルがあってもいい。
「リフィルの選択肢を増やす」「標準化でリフィルの輪を広げる」「ボディを替える」このサイクルでたいていは良さそうだが、もう1つ「満たしてあげるよ」という心のリフィルの仕掛けがあれば、もっといい。
なぜなら人間、生きていれば心も減るからだ。エネルギー、体力、知力、ネタ、恋愛感情……。結果が思わしくないと、ヤル気や愛情もまた減ることがある。成果の出ない仕事に疲れ、振り向いてくれない愛に疲れ、疲れた自分にまた疲れ……心が減る。まさにリフィルが必要なのである。
小さなアイデアだが、リフィル商品の包装紙に「頑張ったね」「あとひと押し!」「鼻高々♪」といったコメントを付したマークを印刷するのはどうだろうか。
文具だけでは心がリフィルされないときはどうすればいいか? 3つのアドバイスを応用しよう。お気に入りのマグカップを2つ持って定期交換する、PCの壁紙を複数用意して切り替えるなど、小さな元気の素でいいから試してみよう。
それでもまだリフィルが足りないなら、会社の外に飛び出そう。自己変革セミナーや大学の公開講義に出席するのもいい。出会いを求めて合コンに出るのもいいけれど、同じタイプの異性に引き寄せられて、同じ間違いを繰り返さないように。
3つ目のアドバイスは「ボディを替える」だったが……おっと、早まらないで! 生身の体はリフィルできないから。
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