広報マンとして何とかスタートを切った。そんな矢先に始まったのがADSLサービスの「Yahoo!BB」である。2001年6月の発表以来、世間の注目が集まった。同時に、接続工事の遅れなどで大量のクレームも寄せられた。この時期、「転職してよかったのだろうか」と悩んだという。
悩みつつも仕事をこなす毎日だったが、広報マンとしてのスキルは上がっていったようだ。2年目にもなると、プレスリリースを書いても直しが入らないようになってきた。記者の取材対応も任されるようなった。「メディアの特性も把握し、どこに何を言っていいのか、何を言ってはいけないのかが分かってきました」。ほかの企業に比べて発表が多いというソフトバンク。とことん場数を踏んで得たのは自信だった。
思い出に残っているのは、冒頭の球団買収。記者会見で使うプレゼンテーションの資料作りも任された。「報道では(ソフトバンクは)球団を買わないと言われてましたから。社員も知らないネタだと思うと興奮しました」
ソフトバンク流プレゼンテーションは「紙芝居」だという。テキストをダラダラと書くのではなく、その要素を抜き出して書く。1ページにつき記入できる要素は1つだけ。「配布資料としては、1ページに伝えたいことをすべてまとめるのも良いですが、会議室に映すとなると文字が小さくなってしまい読みづらくなります」
「話者を考えることも大事です」とも。プレゼンテーションする人がしゃべりやすいように作ってあげることが重要なのだ。たとえば、PowerPointですべてを書かないようにする。「全部書いておくと、プレゼンで話す必要がなくなりますよね。資料を見ればいい、というようにならない工夫が必要です」。そのための工夫が紙芝居なのだ。
紙芝居は観客に絵しか見せない。説明するのは紙芝居をする人だ。プレゼンテーションも同じ。絵は分かりやすく、説明はストーリーを意識したものにする――というわけだ。「(孫)社長が何をしゃべるのかを意識して作っていました。カッコいい言葉でいえば、“行間のあるプレゼンテーションを作る”ことを目指してましたね」
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