さよならキーボード――音声と手書きの二刀流「ハイブリッド入力」樋口健夫の「笑うアイデア、動かす発想」

7月下旬、左ヒジに激しい痛みを感じた筆者は、医者から「タイピングをやめなさい」と言われた。書籍の原稿が滞ってしまう。どうしよう……。そんな時に編み出したのが、音声入力とタブレットPCを組み合わせた「ハイブリッド入力」である。あなたのタブレットPC、遊ばせてないか――。

» 2007年12月21日 08時00分 公開
[樋口健夫,ITmedia]

 7月下旬のことだった。突然、筆者は左ヒジに激しい痛みを感じ始めた。同時に左右の薬指に腱鞘炎が生じた。これではタイピングできない。大問題は、次に出版する書籍の原稿が滞ることだった。かかりつけの医師に診てもらうと、PCの使い過ぎを指摘された。「直すのは簡単だよ。タイピングを止めなさい。そうすればすぐに治るよ」「それは、難しいです。画家に筆を取るなというのと同じです」「じゃ、治らんね」。

 これは大変だ、どうしよう。商売替えも考えた。痛みはますます激しくなる。その時に思いついたのが音声入力。いろいろ調べてみると、口述筆記の機器を販売しているセントラル産業のWebサイトがヒットした。

 セントラル産業のサイトでは音声入力用のマイクとソフトの組み合わせで「5倍から7倍の効率化ができる」とあったが、そう簡単には信じられなかった。というのも筆者は音声認識ソフト「Via Voice」で音声入力に2度挑戦したが、満足できなかったからだ。すでに10年前だが、その“後遺症”もあって音声入力は遠ざけていた。

PHILIPSのマイクと愛用のタブレットPCで入力する

 だが、ヒジの激痛はどうしようもない。ダメでもともとの気持ちで、セントラル産業からPHILIPSのマイク「SpeechMike Exec Classic」と、ニュアンスコミュニケーションズの音声認識ソフト「Dragon Naturally Speaking 2005 Professional」を取り寄せた。

 まだ完全に音声入力を信じていなかったが、音声入力のテストを始めたら、びっくりした。10年前と比べると音声の入力が正確で早かったからだ。

 とはいえ、認識がうまくいかなかったり、煩雑な部分もある。同音異義語であれば、変換候補を選ぶことになるが、「正確」のつもりで「せいかく」と発声すれば、「性格」と表示されて一瞬「あれ」と思うが、候補となる単語リストのボタンを押すと「正確、性格、精確……」などの候補も表示するので、そこから「正確」を選ぶのだ。

 こうした作業は、音声でもキーボードでも操作できる。導入の趣旨から考えれば、キーボードをまったく使わないほうが良いに決まっているが、音声だけで操作するより、キーボードを交えたほうが素早く利用できそうだ。

 日頃タブレットPC「FMV-BIBLO LOOX P70R」を愛用している筆者の場合、左手にマイクを持ち、右手に入力用のタッチペンを持つわけだ。ちょっとした“二刀流”である。左手の音声入力と右手の手書き補助を組み合わせたことから、筆者は「ハイブリッド入力」と名付けた。

 このハイブリッド入力法、うまく使いこなすには少々コツもある。タブレットPCのほうは、手書き入力のフィールドをあらかじめ表示しておくこと。こうして音声入力が戸惑いそうな、外来語や人名は最初から手書きで先に入力してしまおう。タブレットのペンはマウスの代わりでもあるから、音声入力時の選択肢もペンで選べる。タブレットの手書きも音声入力で生きてくるのだ。

 キーボード入力の場合、筆者は調子のよい時で、1300字のコラムを1時間程度で書き上げる。ハイブリッド入力だと、50分以内で完成できるようになった。10分以上の短縮は大きい。それ以来、こうしてまったくキーボードに触れないで、PC入力できるようになった。この原稿ももちろん、ハイブリッド入力である。

 懸念だった原稿も予定通り書き上げることができた。ヒジの痛みも消えた。筆者は飛行機機の中でも、新幹線での移動中も、スターバックスで休憩中も、ハイブリッド入力を試している。周りに人がいる場合は、あまり大きな声だと迷惑をかけるが、空いていれば問題はない。発声することで、自分の考えがまとまることもある。行き詰ってしまったときにも効果がありそうだ。

今回の教訓

あなたのタブレットPC、遊ばせてないか――。


著者紹介 樋口健夫(ひぐち・たけお)

好評販売中の「ポケット・アイデアマラソン手帳'08」。1年間に1000個のアイデアを書きとめよう

 1946年京都生まれ。大阪外大英語卒、三井物産入社。ナイジェリア(ヨルバ族名誉酋長に就任)、サウジアラビア、ベトナム駐在を経て、ネパール王国・カトマンドゥ事務所長を務め、2004年8月に三井物産を定年退職。在職中にアイデアマラソン発想法を考案。現在ノート数338冊、発想数26万3000個。現在、アイデアマラソン研究所長、大阪工業大学、筑波大学、電気通信大学、三重大学にて非常勤講師を務める。企業人材研修、全国小学校にネット利用のアイデアマラソンを提案中。著書に「金のアイデアを生む方法」(成美堂文庫)、「できる人のノート術」(PHP文庫)、「マラソンシステム」(日経BP社)、「稼ぐ人になるアイデアマラソン仕事術」(日科技連出版社)など。アイデアマラソンは、英語、タイ語、中国語、ヒンディ語、韓国語にて出版。「感動する科学体験100〜世界の不思議を楽しもう〜」(技術評論社)も監修した。「アイデアマラソン・スターター・キットfor airpen」といったグッズにも結実している。アイデアマラソンの公式サイトはこちら


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ