「このサービスの対応ブラウザは、Internet ExplorerとFirefoxです」を英語で伝えるにはどうしたらいいか――。東京大学とベネッセコーポレーションが配信を開始した「英語deキャリアアップ」を聞いてみた。
「このサービスの対応ブラウザは、Internet ExplorerとFirefoxです」を英語で伝えるにはどうしたらいいか――。東京大学とベネッセコーポレーションが1月31日に配信を開始した「英語deキャリアアップ」。架空のシステムインテグレーター(SI)に勤めるシステムエンジニアが主人公の英語リスニングコンテンツだ。
監修した東京大学・准教授の中原淳氏は、継続できる英語学習に重要なのは「プラクティス(実践)とレリバンシー(関連性)」だという。英語力が必要だと感じているビジネスパーソンほど、忙しい現業のため英語学習に時間が割けないのが現状だ。あまりにも学問的な英語だったり、関係ないシーンを想定した英会話より、実践的で自分との関係性が高いシーンを想定した教材であるべき――というわけである。
この考えを推し進めたのが、2007年11月に実験した「なりきりEnglish!」だった。ウィルコムの「W-ZERO3」を利用し、「mother coil(母材)」「stock yard(貯蔵場所)」といった新日本製鐵(新日鉄)の業務に特化した英単語をふんだんに使った英語教材だ。
実験結果によると、約50人の学習者のうち学習継続率は93.62%と高い結果を残した。しかし、ターゲットが新日鉄の社員だけではさすがにニッチすぎた。「なりきりEnglish!は、いわばフェラーリのようなスポーツカー。誰でも乗れるわけではない」(中原氏)のである。
スポーツカーとまではいかないものの、もう少しカジュアルに“乗れる”教材があってもいい。そうして開発したのが、冒頭の「英語deキャリアアップ」だ。
英語deキャリアアップは架空のSI企業を題材に、IT業界をターゲットに絞った。企業ターゲティングのなりきりEnglish!に比べて、業界ターゲティングの英語deキャリアアップのほうが、「乗用車の感覚で乗れる」というわけだ。
コンテンツはポッドキャスティングを利用できる端末なら再生できる。第5〜6世代のiPodや第3世代のiPod nanoであれば、iPodQuizを用いたチェック用テストも利用可能だ。このほか、メールマガジンも用意。ポッドキャスティングは4月下旬まで全部で12回のストーリーを配信する。あらすじは以下の通り。
登場する架空の企業は、米国の総合ファッション企業SORA社と日本のIT企業SIコーポレーション。SORA社は日本でのeコマースサイトの立ち上げをSIコーポレーションに依頼する。
SIコーポレーションの担当者は、入社6年目のシステムエンジニア秋山と上司の鈴木さん。SORA社の担当者は、日本での初仕事に抜擢されて張り切るサラ。初めての英語での仕事に緊張を隠せない秋山のフォローに回るメンター役の鈴木さんが英語のワンポイントチェックを伝える。秋山はサラとコミュニケーションをとれるのか、プロジェクトの行方は果たして――。
番組回 | タイトル | テーマ | カリキュラム |
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第1回 | 英語の電話がかかってきた! | 電話の受け方 | ・ビジネス電話の基本 ・用件、日程を確認する |
第2回 | SORA社のオリエンで出会いが! | オリエンテーションの受け方 | ・質問のしかた ・事実や情報を確認する |
第3回 | いよいよ、プレゼンの日! | プレゼンテーション(1) | ・プレゼンテーションの流れをつかむ ・内容を的確に伝える |
第4回 | 英語の質問にしどろもどろ!? | プレゼンテーション(2) | ・質問への対応法 ・プレゼンの演出法 |
第5回 | カンファレンスに参加して情報をGET! | 情報収集 | ・初対面の人に自分の仕事や会社を紹介する ・必要な情報を聞き出す |
第6回 | システムの追加って!? | クライアントとの会議 | ・相手のニーズを聞き出す ・コミュニケーションを円滑にする |
第7回 | キックオフってパーティ? | キックオフ会 | ・プロジェクト体制を確認する ・協力者を紹介する ・相手のことを知る |
第8回 | 多国籍の英語なんて、分からないよ! | 電話会議の進め方 | ・電話会議の進め方 ・進捗を報告する ・妥協点を見出す |
第9回 | 今さら、ブラウザの追加なんて無理! | ネゴシエーション | ・クライアントの要望を確認する ・協力を依頼する ・双方が納得する着地点を探す |
第10回 | 秋葉原deデート!? | コミュニケーションを深める | ・相手の興味を知って、コミュニケーションを深める ・(秋葉原について)説明する |
第11回 | マニュアルくらい読んで! | トラブルを解決する | ・問題点を明らかにする ・解決策を示す ・安心させる |
第12回 | そして、2年後…… | ジョブインタビューの受け方 | ・自分を売り込む ・相手に好感を与える ・実績をアピールする |
各回いずれも15分前後。まずドラマの本筋から始まり、続いてその会話での反省点を秋山と鈴木とでチェックするコーヒーブレイク、そしてビジネス英語のフレーズをピックアップしたBusiness English Tipsという3部構成。コーヒーブレイクの後に、再度本筋の英会話が流れるので厳密にいえば4部構成かもしれない。
電話の受け答えにしても、プレゼンテーションにしても実際に使う英語はそれほど多くない。だが、現実にはしどろもどろになってしまう。そう考えると、第1回、第3回、第4回あたりは、ビジネスシーン別のイメージトレーニングとしても利用できそうだ。また、第8回ではインドのパートナー企業も登場する。現実でも発音のきれいなキングスイングリッシュのスピーカーだけではないから、実践的な内容だろう。
個人的には、第9回と第11回がツボにハマった。第9回はSORA社から対応ブラウザの追加を要求されるのだが、思わず秋山が「それは無理」と言ってしまう。仕様決定後のクライアントからの理不尽なお願いにどう対応するか、現実で似たような問題に直面している人も多いのではないだろうか。一方、第11回では勘違いしたサラが「Webサイトが見られない」と英語でまくしたて、秋山がタジタジに。開発中のテスト環境ではありがちな話だが、聞いていて思わずニヤリとしてしまった。
「海外でビジネストークをする時に、意外と自分の会社の概要を伝えられない人もいる」(中原氏)。国内では有名な企業だったり、業界同士の会合しか出席しなかったり、自社の説明をわざわざすることもない――というビジネスパーソンも少なくない。「英会話しなくちゃ」と気負うのではなく、自社の規模や資本金をはじめとした、自分の仕事に近いところから話してみるのも英会話のコツだという。中原氏は「まずはこうしたコンテンツが、ビジネス英語のタネになればいい」と抱負を語った。
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