新社会人がデビューした。右も左も分からないまま、やれビジネスマナーだの仕事だのと、覚えることは山積みだ。仕事はもちろん大事。でも同じくらいマナーも大事――などと言われたところでピンをこない人も多いはず。“実技”に入る前に、この素朴な疑問を解き明かそう。
慣れないスーツに身を包み、フレッシャーズが社会人デビューを果たした。入社早々、真っ先に取り組まなくてはいけないのがビジネスマナーだ。本題に入る前に、まずは今現在どれだけマナーを理解しているか、下の【CHECK】をやって確かめてみよう。
a.乗るときも降りるときも来客が先
b.乗るときも降りるときも自分が先
c.乗るときは自分が、降りるときは来客が先
a.あくまで無礼講。少々ハメを外して楽しむ
b.ハメを外さない程度に会話に参加して盛り上げる
c.あくまで控えめに徹し、プライベートの話は避ける
a.接客中の上司に直接口頭で伝える
b.接客中の上司にメモを渡して伝える
c.接客が終わったタイミングで上司に伝える
3つとも解けただろうか。さっそく答え合わせをしよう。
まず【CHECK1】の正解はc。先にドア付近に乗って「開」ボタンを押す。降りるときは「開」ボタンを押して、お客様を先に下ろすのがベストだ。
ただし、状況によってはそうとも言い切れない場合もある。エレベーターから降りたお客様をどこかに誘導するとき。この場合は、先に降りて「開」ボタンを押しておく、bの選択もアリだ。
次に【CHECK2】。この正解はb。いくら上司が無礼講と言ったからと言って真に受けてはダメなのだ。かといって貝の口では場が白けてしまうから、ハメを外さない程度に盛り上げよう。
ただし、こちらも状況によっては例外もある。上司の言葉通り、周りの皆が無礼講になった場合、1人だけとりすましても場の空気を悪くしてしまう。そんなときは空気を読みつつ、多少は無礼講になって周りに同調するのもアリだ。
そして【CHECK3】はbが正解。さっとメモを渡すのが最もスマートな方法だ。
ただし、これも一概に言い切れない。例えば懇意のお客様と砕けた話しに差しかかっている場合など、その場の空気が許し、かつ社外の人に聞かれても差しつかえない内容の場合は、口頭で伝えても差し支えない。
――いかがだろうか。これらは知っているだけでなく、実践して初めて意味がある。でもなぜマナーが必要なのか。その答えを考える前に、学生と社会人はどう違うのか確認しよう。
内容 | 学生 | 社会人 |
---|---|---|
おカネ | 払う | もらう |
個人行動 | 基本的に自由 | あくまで組織の一員としての振る舞いが求められる |
評価 | 出席日数や試験の点数など、評価基準が比較的明確 | 単純に数値化できない側面がある |
自由な時間 | 1カ月以上の長期休暇もあり、比較的多い | 学生に比べると少ない。チームプレーで進める場合は、休む際に周囲への配慮も必要 |
人間関係 | 同世代が多い。好きな仲間とだけ接していればよい | さまざまな世代と関わる。苦手な人とも接しなければならない |
最大の違いは身分。学生は授業料を払って学ぶ立場だが、社会人は報酬をもらう立場。社会人は報酬という対価をもらうのだから、そのぶんしっかり働かないといけない。この心構えと自覚が、マナーを含めた仕事全体に影響を及ぼす。
もちろん学生時代のアルバイトで、責任感を持って仕事に臨み、ビジネスマナーをすでに身に付けている人もいる。逆に社会人になって久しい人でも、マナーがなっていない人も中にはいる。ただ少なくとも、学生は学生という身分に守られているぶん、さまざまな“免罪符”をもらいながら生きてきたはずである。
バイトはいざ知らず、社会人としては初めての仕事。初めからバリバリ仕事がこなせる人はいない。先輩や上司から教わりながら、1つひとつステップを踏んで仕事を覚えていくのだ。
さて、あなたは将来、ビジネスパーソンとしてどう評価されたいのだろう。仕事ができ、人からも好かれるビジネスパーソン――というのが、誰もが抱く理想ではないだろうか。仕事だけできても、暗くてコミュニケーションをとりにくかったら、本人も周りもやりづらいし、ただ明るいだけで全く仕事ができなくても周囲は大変だ。
(仕事の能力)×(コミュニケーション能力)≒(評価)なら、まだ仕事自体で期待されていない新人のうちは、コミュニケーション能力が評価と直結するし、コミュニケーションでの評価が高ければ、仕事を覚えやすい環境づくりに直結する。だから人と気持ちよくコミュニケーションをとることは、仕事と同じくらい大事だったりするのだ。そして人と気持ちよくコミュニケーションをとるためのベースに、マナーがある。
ここで冒頭の【CHECK】を思い出してみよう。模範解答以外にも答えがあった。そこから分かることは、確かにマナーには基本原則が存在するが、その場の状況次第で応対する力が問われるということ。
だから模範解答は踏まえつつも、相手を不快にさせずに和やかで穏便な雰囲気に持っていけるよう、臨機応変な応対ができさえすれば、「気が利く」「感じがいい」などと周りからかわいがられ、良好な関係を築くことができる。
マナーは相手のために行う行為。同時に周囲といい関係を築くことで、最終的には自分を受け入れてもらい、自分の話を聞いてもらうためにある。聞いてもらうことでさらに自分を表現できるし、より深く自分を理解してもらえる好循環をもたらす。
このように、「相手のため」は「自分のため」でもあるビジネスマナーで好循環になれば、仕事環境をより快適にすることができ、仕事のモチベーションも上がる。モチベーションが上がれば、仕事自体を身に付けるスピードも上がり、いいこと尽くし。
身に付けたいのは、臨機応変に立ち振る舞うことで周囲から重宝がられ、本業の仕事の好循環を生み出す“愛され”マナーだ。まだ仕事での評価が得られなかったり、仕事でしくじってしまったりしたぶんを、このコミュニケーション能力でカバーしてしまおうというのが、“愛され”ビジネスマナーの極意である。
とはいえ、基本を知らなければアレンジしようがない。ゴールに“愛され”マナーを見据え、まずは基本のビジネスマナーから1つずつ身に付けていこうではないか。
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