みずみずしさと純粋思考の野帳スケッチ郷好文の“うふふ”マーケティング(1/2 ページ)

取材がきっかけで「野帳」にハマッてしまった。野帳とはフィールドノートのことで、本来は測量技師などに作られたもの。初めは真似をして使い出し、ネタや仕事の思いつきをこのノートに書き留めているうちに、野帳の魅力に気付いた。それは……?

» 2008年07月03日 20時12分 公開
[郷好文,Business Media 誠]

著者プロフィール:郷 好文

 マーケティング・リサーチ、新規事業の企画・開発・運営、海外駐在を経て、1999年よりビジネスブレイン太田昭和のマネジメント・コンサルタントとして、事業戦略・マーケティング戦略、業務プロセス改革など多数のプロジェクトに参画。著書に「ナレッジ・ダイナミクス」(工業調査会)、「21世紀の医療経営」(薬事日報社)、「顧客視点の成長シナリオ」(ファーストプレス)など。現在、マーケティング・コンサルタントとしてコンサルティング本部に所属。中小企業診断士。ブログ→「マーケティング・ブレイン」


 野帳にハマッている。「ヤチョウ」と発音するだけで、何やら口の中に“野趣な雰囲気”が広がる。ほとんどの人が「ヤチョウって何?」と聞き返すので「フィールドノートですよ」と説明する。カタカナで言うと野趣さが半減して残念だ。野帳は自然観察記録をするための小型ノートである。今までたくさんのメモ帳を使ってきたが、これほどハマッたものはない。ダントツで使いやすい。こんな“不朽の文具”があることをつい最近まで知らなかったのが悔やまれる。

 きっかけは前回、農業のこと(ながしま農園)を書いたときの資料収集だった。若き農園主とその友人のブログのやりとりの中で、野帳という単語を見つけた。「畑のこの場所ではニンジンがいい、ここではコールラビ(西洋カブ)がいい」とあった。家庭菜園をしている人なら、土質(栽培場所)と野菜に相性があることは知っているだろう。だから畝やタネの記録を記憶しておくが、覚え切れないときに「野を帳面に記録する」――だから野帳だ。

野山を記録する野帳の達人

 筆者は野帳のアマチュアゆえに、野帳の達人を探した。東海大学自然史博物館の学芸員、柴正博さんの野帳はすごい。

(撮影:柴正博さん)

 これは野外の地質調査のルートマップで、岩相と構造を記したものだ。この緻密(ちみつ)さには驚嘆してしまった。書いてあるのは専門用語でさっぱり分からないが、踏査しながら1カ所ずつ記録をする苦労は想像に難くない。

 これは観察ポイントの記載と風景スケッチだ。時間に余裕があるとき書くそうだが、うまい。

 これは恐竜展の会場見取り図と恐竜化石の配置を記載したもの。1つ1つ丹念に展示化石を見回っているのが分かる。写真を撮るだけでなく、自分の手で書き残せば深い記憶ができる。

 柴さんは地学団体研究会のA6版の野帳を使用(1冊300円)。色鉛筆と定規などを携帯できるカバーが便利だという(現在は製造中止)。まとまった調査活動を別にすれば、時系列で分類せずに野外調査をするたびにページを埋めていく。日付や場所など、思い出せる要素を一緒に書き込んでおくことがコツで、学生時代から今まで80冊以上になるそうだ。

 「日本は自然災害が多いのに地質学や地学の重要性が高まらないし、専攻学生が少なくなった」と柴さんは嘆く。土木業や測量業などは今や“構造不況業種”だが、自然を相手にする仕事は緻密で貴い。それが柴さんの野帳から伝わってくるのだ。

都心郊外で鳥を記録する野帳の達人

 MUGIさん(仮名)は、郊外の緑地に見聞きした鳥の姿を野帳に記録している。

ノート見開き(左)、ノート表紙(右)、撮影:MUGIさん

 「野帳は観察目的で出かけるときはもちろんですが、そうでないときも常に携帯する」とMUGIさん。女性らしい感性で、歩いて見つけた鳥の姿や聞こえた声を記録する。ノートにはツバメ、カルガモ、セブロセキレイ、マガモ、インコなどの鳥名が見える。時刻、鳥の名前、鳥が何をしていた(聞こえた)で、ノートをタテ3列で区切って記録する。

 文房具店で簡単に手にすることができるコクヨのキャンパスノートB6(ノ-211C)を使用していて、1998年から始めてもう30冊目だとか。このノートをポケットに丸めて郊外緑地を観察散歩するという。10年30冊の鳥の記録は、思い出だけでなくデータとしても価値がある。

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