MSのVisio買収で分かった人数別コミュニケーション術――仲尾毅さん達人の仕事術

1999年にビジオ・ジャパンに入社した仲尾さん。翌年にはマイクロソフトに買収された。「いきなり知らない人ばかりと仕事をしなくてはいけない状況になりました」と言う。

» 2008年07月15日 13時01分 公開
[一柳麻衣子,ITmedia]

 「本来の自分は頑固で、好みが偏っていて、口下手だし、思い込みが強いタイプ――」と言うのはマイクロソフトでMac OS向けOffice製品のエグゼクティブプロダクトマネージャーを務める仲尾毅(なかお・つよし)さんだ。愛用の「MacBook Pro」を脇に抱えてさっそうと現れた。少し恥ずかしそうではあるが、簡潔に話す姿からは頑固者の口下手には見えない。

仕事は変わらず――だが、知らない人ばかり

 理系大学出身ということもあり、機械・システム関連は得意分野だ。最初に就職したのは放送機器を取り扱う会社で、プロフェッショナル向けビデオシステムのエンジニアとして編集・送出システムの構築を手がけていた。その後数回の転職を経て、1999年にビジオ・ジャパンに入社。あのビジネス向けグラフィックソフト「Visio」を開発していたビジオである。

 だが、その翌年の2000年、ビジオはマイクロソフトに買収された。「こんな経験は初めてですね。自分の仕事は全く変わりませんが、いきなり知らない人ばかりと仕事をしなくてはいけない状況になりました」

 転職であれば周囲の人たちはもちろん、仕事内容も、やり方も変わる。人間関係も大事だが、まずは自分の仕事を覚えることが先決になる。しかし仲尾さんの場合、仕事内容は変わらず、周囲の人たちが変わった。今までは20人ほどの会社だったのがいきなり1000人以上の会社になった。自分の仕事を進めるためにはまず、1000人以上の大企業になじむことが大切だったという。

 「私の仕事は関係部署をつなぐハブ的な業務です」と仲尾さんは自分の仕事を説明する。商品ソフトの開発から製造工場、アフターケアまで関連する部署は多い。かといって司令塔というほどかっこういいものではなく、どの部署の人たちともかかわるPM(プロダクトマネージャー)はどの部署に対しても、何かとお願いをして回る立場だという。だからこそ、少人数の時には特別に問題視していなかった、コミュニケーションが重要課題になった。

関係者1000人のとき、考えなければいけないこと

 マイクロソフトになったばかりの会議では、多数の人を相手にするためにコミュニケーションが足りなかったとあらためて感じたことがあった。「事前のネゴシエーションやコンセンサスを取った上で会議に臨まなくてはいけなかった。基本的なことですが、大勢の視線が鋭い矢になって自分に刺さってきましたね」と仲尾さんは当時を振り返る。

 ある時、仲尾さんが担当する商品の営業担当者が3人会議に出席したとき、彼ら営業担当相手を説得する資料やデータを準備できずに会議を開いた。営業3人といっても、エンタープライズ向け、流通会社向け、量販店向けと分かれていたため、それぞれが欲しがっている情報やデータが異なった。コミュニケーション不足で、出席者たちの役割や仕事配分も分かっていなかったからだ。

 営業担当者たちを相手に仲尾さんはプレゼンテーションを決行したが、お互いに満足いくプレゼンには至らなかった。当然、質問をされても答えられなくて、沈黙が流れることがあったり、そもそもこの会議にこの人は呼ばなくても良かったのかもしれないと思ったり。準備不足からの反省は多かった。

 仲尾さんが言う「ハブ」的な仕事は、自分の立場と社内の関係部署が同等なパートナーとなる。商品開発であれば開発部、実際の商品を作る際は工場のあるシンガポールの人たちとテレビ会議、プレスリリースを出すならマーケティングコミュニケーション、広告を打ち出すなら宣伝部とかかわる人は多数。そのすべてと同じようにコミュニケーションする必要があるのである。「彼らの信頼を得るには質問されたことに即答すること。それからその根拠となる資料を準備することです」と仲尾さん。そのためにも情報交換が必要だったり、相手の仕事の分量を把握したりする必要があった。

 少人数の会社であれば、営業担当が1人ですべての業界を担当するのが当たり前だった。仲尾さんが即答できないことでも「後で調べて連絡する」の一言で済んだし、「ちょっと集まって」と気軽に会議を開くことも可能だった。しかし、多数を相手にするということは即答できなければ自分の仕事もパートナーの仕事も滞ってしまうことにつながった。だから即答することやそのための事前準備が大事なのだ。

変化に対応するには多くの人たちとのコミュニケーションが必要

 とはいえ、ただ1つの目標に向かって一緒に動くメンバーが多いということは大きなプロジェクトだ。ビジオのころに比べたらマイクロソフトのユーザーは多く、大きく展開できる可能性が広がる。仲尾さん自身がその手ごたえを感じ、ワクワクする気持ちを感じながら、仕事を効率的に稼働させる手法を模索したのだ。

 「一番仕事を効率的に動かすには自らアクティブに行動し、積極的に多くの人に話しかけることだった」と話す。仲尾さんが勤務していた新宿から支店があった調布にも何度も出向いた。またある時は、自分のプランをプレゼンの事前に関係者に見てもらい、実現可能か判断を仰ぐこともあった。プランが無理だと言われれば、何が問題なのか? その問題がクリアになっても、ほかの関係部署ではどうだろうか? と何度も質問を繰り返した。結果、多くのスタッフが集まる会議でも予想され得る資料を準備し、時間を有効に使った会議にすることができた。

 仕事の事務作業やルーティンワークの効率化に有効なソフトやツールは数多くある。しかし、その道具を使いこなしても密なコミュニケーションが取れなければ仕事の成功に結びつかない。仲尾さんは本来頑固で、口下手。できればコミュニケーションを取りたくないタイプだと言っていた。しかし、こうした自己分析ができるからこそ、「自分はこれがいいと思うけど、あなたはどう思う?」というスタンスを大事にすることに気づけたのだ。

 「変化する市場は好きです。しかし、その変化に柔軟に対応する俊敏さを身につけるには多くの人たちとのコミュケーションが常に必要だということも分った」という仲尾さん。会議やプレゼンで失敗した時期は自分にとって必要な学びの過程だったと、当時を振り返る。「ハブ」がなければ関連部署をつなぐことも、製品を売り出すことも難しい。毎日多忙ではあるがそんな今でも多数の人を相手に仕事を効率的に動かす最重要ツールはコミュニケーションだという気持ちを強く持っている。

仲尾さんの仕事道具
プロフィール
お名前 仲尾毅(なかお・つよし)
プロフィール 復帰前の沖縄で生まれ小学校まで基地の町コザ(現沖縄市)で育つ。熊本の中高一貫校を経て大学より東京へ。卒業後、放送機器を取り扱う会社でプロ向けビデオシステムのエンジニアとして多数の編集・送出システムを構築。その後、台湾のMac互換機メーカー設立に加わりマーケティング全般を担当。1999年にビジオ・ジャパンに入社するも、買収により現在の会社へ移籍、Mac向け製品マーケティング担当として現在に至る。
PC MacBook Pro
携帯電話/PDA(データ通信カードを含む) SoftBank X03HT、EMOBILE D02HW、iPod touch
デジタルカメラ Nikon D50、Xacti DMX-C6
ブラウザ Safari、Internet Explorer
収集ツール(RSSリーダーなど) 手作業
メールクライアント Entourage 2008 for Mac
インスタントメッセンジャー Messenger for Mac 7
よく使うショートカットキー [Cmd]+[Tab]、Expose(F9、F10、F11)
ファイル整理ツール(デスクトップ検索を含む) Mac OS Xそのもの
バックアップツール 手作業
検索サイト Windows Live Search、Google
Webメール .mac
ブログ なし
SNS Facebook、mixi
ソーシャルブックマーキング なし
Wiki wiki
影響を受けた人/本/Webサイト 人:ジーン・シモンズ(KISS)、スティーブ・ジョブス(Apple)
本:『人を動かす』
座右の銘 臨機応変
手帳/ノート MacBook Pro(最近紙の手帳を使ってません)
ペン こだわらず
その他小物(ICレコーダ、ポストイットなど) iPod touch

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