第15回 教えるための「道具」に気を使っていますか?実践! 専門知識を教えてみよう(3/4 ページ)

» 2008年08月01日 08時30分 公開
[開米瑞浩,ITmedia]

「トライアルから学ぶ学習のサイクル」を考えてみると

 この辺りで、「トライアルから学ぶ学習のサイクル」というものを考えてみましょう。下記、図1がその概念図です。

 「イメージ」というのは、実験をする前に学習者が持っているであろう「こうなるのではないか?」という予想のことです。

 次の「トライアル」は実験そのもの。

 3番目の「評価」は、トライアル=実験そのものの結果に対する評価です。予想通りだったか否か、つまりイメージと合っていたかどうかを検証します。

 検証したら当然それをフィードバックすることになります。そのフィードバックを受けてイメージを修正し、またトライアルをする、というのが「トライアルから学ぶ学習のサイクル」なんですね。このサイクル自体は理科実験に限らず、どんな分野でも共通のものであることはごく自然に分かるでしょう。

 ところで、図1では「フィードバック」にだけ太い赤線を使っています。これはつまり「フィードバックが重要」と言いたいから赤線にしたのですが、では「フィードバック」がうまくいくのはどんな時でしょうか?

フィードバックは評価とイメージをつなぐもの

 「フィードバック」の出発点は「評価」です。つまり、トライアルの結果を的確に「評価」できなければフィードバックはうまくいきません。当たり前ですね。

 この点について、ある格闘技経験者の話が参考になるので紹介しましょう。仮にN氏としますが、N氏はアマチュアながらいくつもの格闘技を学んだ人物で、その経験の中に2つの打撃系格闘技がありました。

 どちらもキックを使う競技だったのですが、そのキックの指導方法が両者で大きく違ったと言います。A競技のほうは、キックを出すにあたっての身体の使い方をたいへんに細かく指導して素振りをさせる、いわば図1でいう「イメージ」中心の教え方だったのに対して、B競技ではそれがほとんどなく、とにかく実際にキックを打ってみる、パートナーが持つキックミットに実際にキックを叩き込む練習を何度もするというものでした。

 すると、B競技では「素振り」ではなく実際に「本気の蹴り」をミットに入れることになるので、うまく蹴れなかったら音や衝撃の弱さですぐに分かります。つまり「評価」が分かりやすいのですぐにイメージを修正してやりなおすことができる。結果、B競技のほうが練習しやすかった、とN氏は語っていました。

 つまりこれは、ミットという「道具」を使うことで、「評価」の精度を上げた例になります。評価の精度が上がればその分フィードバックが適切になるのは当然ですね。

 こういう話はスポーツ界にはいろいろとありまして、例えば現在MLBで活躍中の松坂大輔投手などは、高校時代にノーコンを矯正するために、ホームベース上に1個置いたボールにぶつけるように投げる、という練習をしていたそうです。これも「評価が分かりやすくなる」という方法であることはお分かりでしょう。ちなみに私が現在やっている卓球の練習の中にもその種のものがあります。

 一方、「フィードバック」の終着点は「イメージ」。ということは、もともとハッキリとしたイメージを持って練習を(学習を)しなければいけないということです。イメージがないまま、ただ言われたとおり身体を動かしているだけでは、「フィードバック」が適切であっても「イメージ」を修正する効果が上がりません。

 この「イメージ」は学習者が内的に持つものなので、外部から与えることはできませんが、学習者がイメージを形成する手助けはできます。その方法の1つは「しゃべらせる」ことです。今からやろうとしている練習はどんなもので、何をどう動かしてどういう結果が出れば成功なのか、それを事前にしゃべらせることが効果的です。

 従って、しゃべらせてイメージをうまく引き出すことができれば、理科実験をグループワークで行うことにも意味があります(とはいえ、実験そのものをグループワークにしなくても、この効果は達成できると思われますが)。

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