落ち込んだ人がハマッたレベルを脱したら、受け入れレベル、抜けたいレベルへとステップアップします。この時、過去の失敗や未来の希望、あまり期待できない現在の成果に触れると、元のハマッたレベルに逆戻りしてしまうので、対応には注意が必要です。
人間は必ず4つの意識レベルのどれかに当てはまります。前回は、信頼関係を築くために、まず相手の意識レベルに合わせて徹底共感しましょうという話をしました。これはある人間心理をうまく利用したものなのです。
このカラクリと、次のステップ「(2)受け入れレベル」と「(3)抜けたいレベル」について見ていきます。
心理学の理論に「心理的リアクタンス」という考え方があります。
心理的リアクタンスとは、相手が選択の自由を奪って無理やり引っ張っていこうとすると、それに反発を感じ、自由を回復しようとする心理状態を指します。「勉強しなさい!」と頭ごなしに言われると、勉強しようと思っていたのに、とたんに勉強したくなくなったりするのがこれです。
だから、ハマッている状態から無理やり引っ張り出そうとすると、余計に反発してハマろうとします。反対に、ハマッていることにもっとハマらせようとすると、今度はそれに抵抗したくなるのです。
例えば、セールスの人に「これを買いませんか?」と勧められると、ほとんどの人は「いや、ちょっと……(要らない)」と感じます。ところが、セールスマンが「じゃあ、今回はやめておきましょう」と商品を下げようとすると、「いや、ちょっと待って(やっぱり要るかも)」みたいになりますね。相手に対して特に警戒心がある場合は、余計に抵抗したくなります。
ハマッている相手に接する際もこの心理を利用します。
こちらが「つらいね、キツいね」と言っていることに対して相手が抵抗して、「いや、そこまではひどくない」と思うくらい、徹底的に共感しましょう。
相手によっては時間がかかる場合もあるでしょう。何カ月も鬱々(うつうつ)としている部下に関しては、5分や10分で次のステップに行こうと考えずに、じっくり時間をかけてください。場合によっては一緒に飲みにいくようなことも必要かもしれません。この時、こちらのテンションに合わせてポジティブに持っていこうとはしないでください。ネガティブなグチに徹底的に共感してください。
ハマッたレベルから、いきなり(4)のノッてるレベルまで引っ張っていこうとしてはダメです。ポジティブな言葉がちょっと出てきたからといって、「たくさんいいことがあるね」とやってしまうと、相手はまた引いてしまいます。「嫌なことは10も20もあるけれど、1個、2個、悪くないところがあるんですよ」となったら、「そうか」と認めてあげて、(2)の受け入れレベルや(3)の抜けたいレベルに進みます。
実は、これはセルフカウンセリングにも使えます。
自分がハマッたレベルにいたら、無理に抜け出そうとせずに、つらいことを紙に書き出してみてください。つらい、キツいと思うことを、ペンだこができるくらい書き出してみてください。書き出していくうちに、「とはいうものの……」という気持ちになってきます。「とはいっても、そこまでひどくはない」とか、「もっといっぱいあると思ったけれど、こんなもんか」と。そのうち、「でも、あれは結構いいよな」というように、「でも」の後にポジティブなものが出てきたら、(2)の受け入れレベル、(3)の抜けたいレベルに進めます。
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