またも呼び出し大口兄弟の伝説(1/2 ページ)

好評を博したビジネス小説「奇跡の無名人たち」第1部に引き続き、第2部「大口兄弟の伝説」がついに始まります。営業経験もないのに大口顧客しか相手にしないと“大口”をたたくタカシとショージの“大口兄弟”が営業所の危機を救う――のです。

» 2008年11月12日 10時30分 公開
[森川滋之,ITmedia]

筆者:森川“突破口”滋之から

 好評を博したビジネス小説「奇跡の無名人たち」第1部に引き続き、第2部がついに始まります。今回も、ぼくのビジネスパートナーである吉見範一さんから聞いた話を元にした物語。おなじみのC市の営業所で、営業経験もないのに「大口」顧客しか相手にしないと「大口」をたたくタカシとショージの“大口兄弟”が営業所の危機を救う話です。


「奇跡の無名人たち」第1部「震えるひざを押さえつけ」はこちら

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 東京から1時間ぐらいの距離にある地方都市C市の中心街にある営業所。所長の吉田和人は、ため息をついていた。安普請のベニヤ板の臭いは、この2カ月半でかなり建物になじんできた。その間に、和人もこの営業所になじみを感じるようになっていた。

 4月1日に、和人はこの営業所に雇われ所長として着任したマイラインのシェア奪還のための臨時の営業所である。着任当時は桜が八分咲きであったが、今では梅雨入りしてしまった。

 初日の面接で、この営業所に配属している営業部員全員が営業経験のない人間だと知った。法人営業は怖いから個人向けだけにしてくれと嘆願したマザーとクオーター。彼女らとはまったく逆で大企業にしかいかないと宣言するタカシとショージの大口兄弟。チベットで生活していた経験を持つのんびり者のロバさん。プログラマー出身だが鍼灸院を開業しようと思っている人見知りのオタク。顔だけで営業できそうなのに内勤がいいというイケメン。本部から出向してきたが社内人事に詳しいだけのジンジ――。以上が和人に与えられた戦力だった。事務員はしっかりもののアネゴとチェッカーだったが、契約がなければ事務だけ優秀でもしかたない。

 さすがに落胆した。最初の1週間の契約本数はゼロだった。そこから体制を変更し、営業のツールを作り、その使い方を部員に教えてきた。

 営業所全体の目標は月間350回線。4月の実績は120回線強だった。惨敗である。だが、和人は満足していた。4月でいろいろと布石が打てたからだ。実際5月に入って、4月よりも契約本数の伸びが出てきた。6月には問題なく目標を達成し、それ以降完全に挽回するだろう。

 ところが本部はそう思わなかった。5月中旬に本部に呼び出されて、今月も営業目標が達成できなければ、事実上営業所を廃止すると宣告された。和人のヨミでは、5月は100回線ほど不足するはずだった。6月以降問題なく挽回できると踏んでいたので抵抗したが、認められなかった。和人も廃止はやむなしと半分あきらめていた。

 ところが和人と仕事を続けたいと考え始めていた営業所員たちはあきらめていなかった。事務員のアネゴが全員の奮起を促した。それに応えて、クオーターが、ぎりぎりで「奇跡」を起こした。帰国子女で日本語があまり上手でないため法人営業は怖いと言っていた彼女が、法人に飛び込み営業を敢行した。20社目で和人が足りないと予想していた100回線の契約に成功したのだった。

 たった2カ月でC営業所は、自律的に動く人間の集団となっていたのだった。ところが……。

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