そこから1日4時間睡眠の日々が続くようになった。まずは地図を使ってなんらかの情報を表示してみよう、と思い立った。しかしそのアイデアはすでに2007年度の優秀作品「ongmap」で実現されていた。それじゃだめだ、と思い直し、「もっと遊び心を加えてはどうだろう」と思いつく。
地図を見ながらチャットができて、しかも発言した言葉を音声合成でコンピュータにしゃべらせることができたら……。大体のコンセプトをそう決めた。ChatとMapだからサービスの名前はChamapにした。
苦労したのはクロスブラウザへの対応。データを引っ張ってくる部分は問題なかったが、Ajaxを多用するのでブラウザ間の差異を吸収するのに苦労した。JavaScriptのフレームワークを使うことも検討したが、「人が作ったものは不透明ですから……。自分でゼロからやってみました。実現したい機能を1つ1つ分解していけばなんとかなることも分かったので」
このサービスを開発しながらいろいろなことを学ぼうと決めていたkentaroさんが次に苦労したのは画面遷移。普通のWebサイトなら画面をどう切り替えていくかは簡単だ。しかし全面Ajaxにしたことにより、同じ画面で次々とウィンドウを切り替えたり、表示したりしなくてはいけない。なるべく使いやすく、楽しく操作できるように設計することが難しかったという。
1カ月半の開発期間を経てなんとか作品を応募することができた。5位以内を狙いたい、という思いで結果発表を待った。その後しばらくするとコンテスト主催者からうれしい連絡が届いた。「授賞式にお越しいただけますか」
結果はまさかの最優秀賞だった。「ほかのノミネート作品も素晴らしいものばかりだったので自信はなかったですね」。念願の受賞スピーチもすることができた。与えられた時間は5分間。初の受賞スピーチを成し遂げたkentaroさんに感想を聞いた。「5分て短いですね(笑)。あがっちゃってやっぱりうまくしゃべれませんでした」
マッシュアップアワード後は普段の仕事に専念した。1カ月半も仕事を止めていたのでやることは山のようにあった。ただ、今までと違う変化も起きつつある。「これがきっかけで仲間が増えた、というのがうれしいです」と、kentaroさんは教えてくれた。
今までは1人で仕事をすることが多く、福井県内にエンジニアが後どれだけいるかも把握していなかった。どんな勉強会が開かれているかも分からなかった。しかし今回の受賞がきっかけで他のエンジニアから声がかかるようになった。「今まで知らなかったエンジニアのネットワークに入ることができました。今後はほかの人と何かをやってみたい、とも思っています」
コンテストをきっかけに「欲が出てきた」というkentaroさん。エンジニアとしてモノ作りを続けていきたいと考えている。もうすぐ30歳になる。30歳までは勉強を積み重ね、それからは多くの人に使ってもらえる何かを残していきたいという。
「地方にいたとしても、チャンスを生かすことができる時代だと思います。プログラミングコンテストは探せばたくさんあるし、オープンソースに貢献するのも1つの手だと思います。公開すれば誰かが使ってくれるのですから」。kentaroさんは地方在住のエンジニアにそうエールを送る。
最後に賞金の使い道について聞いた。「ちょっと遅めの新婚旅行に行こうと思っています。家族には特に迷惑をかけましたから。親子4人で海外に行ってみたいです」。kentaroさんは笑ってそう答えた。
今回、1つの達成をしたkentaroさん。彼の次の達成を心待ちにしたい。
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