「シンプルな終電検索サービスはどうだろう?」。平島さんのアイデアは次のようなものだった。「終電を検索するために自宅の最寄り駅を毎回入力するのは面倒です。だったら自宅の駅は覚えさせておいて、ついでに現在地からGPSなどを使って最寄り駅を割り出せばボタン一発で検索できるはずだと思いました」
平島さんは自転車通勤なので普段は終電を気にしない。しかし、たまに参加する飲み会で終電を検索することもよくあるし、何よりほかの人がよく終電検索をするのを知っていた。すぐにプロトタイプを作ってみた。1日でできてしまった。それを深夜のすし屋で辻さんに見せた。
「駅名を入力しなくていい、というアイデアはすごく魅力的に思えました」。辻さんは最初の印象をそう教えてくれた。そこからはとんとん拍子に話が進んだ。平島さんは開発を、辻さんは画面設計やマーケティングを担当した。
一番悩んだのはサービス名。「最初は奇をてらってmadaa.ru(まだある?)とかkaere.nu(帰れぬ)といったアイデアが出ました。しかし分かりやすさを優先してshu-den.jp(終電jp)に落ち着きました」。ただ「終電」とすると終電以外の検索はできないことになってしまう。サービスを開発しているとあれもこれもと機能を追加したくなる。終電だけでいいのか、終電以外の検索もできるようにすべきではないか、といった議論が続いたが、最終的にはシンプルさを追求して、終電のみに特化することにした。
技術的なハードルもあった。困ってしまったのは同じ駅名が全国に点在すること。「例えば府中という駅は東京と広島にあります。正しい検索結果を出すにはどうしたらいいか、という工夫に悩みました」。またケータイサービスなので機種対応も大変だった。違うキャリアのケータイを使って何度も検証する日々が続いた。
またサービスに遊び心を取り入れることも忘れなかった。検索結果によっては特別なメッセージや画像が表示されるように仕込んだ。「終電が過ぎてから検索したり、走れば間に合うかもしれないという結果が出る時にはちょっとした工夫をしています。是非試してみてください」。2人は笑いながらそう教えてくれた。この「仕込み」のために新橋駅に入場券で入り、周りから変な目で見られながらも写真撮影を敢行したという。
最終的なリリースは2008年の12月。忘年会シーズンに合わせて公開した。「最初は100人、いや、50人ぐらいに使ってもらえるといいな」という彼らの予想は大きく裏切られることになる。ブログやソーシャルブックマークなどで話題を呼び、1週間で2000人を超えるユーザーを獲得することができたのだ。
「ケータイサービスの良いところは、あまりPCに詳しくない人にも使ってもらえる点です」。平島さんはリリース後の感想をそう語る。辻さんの感想も同じだ。「そのサービスを知っています、ではなくて、使ってみました、という声を多くいただきました。これは本当にうれしいですね」。正月に帰省した時も、終電jpのことを教えていなかった弟に「使ったよ」と言われて驚いたという。
「まだユニット名はありませんが、これからも何かを仕掛けていきたいと思っています。会社もこういった個人活動を応援してくれているので励みになります」という平島さんと辻さん。深夜のすし屋から生み出される彼らの次のサービスに期待したい。
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