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» 2010年09月16日 13時00分 公開

マイケル・サンデル教授の特別講義「Justice」に出席してきたこれからの「正義」の話をしよう(4/7 ページ)

[吉岡綾乃,Business Media 誠]

もし小飼弾さんが私立学校の校長だったら

 医療に続き、サンデル教授が例に挙げたのが「教育」だった。

サンデル 「ある私立の学校があるとします。非常に有名な学校で、入学するには非常に高い得点をとらなくてはならない学校です。ある裕福な親が、子どもをぜひこの学校に入れたいと思いました。でも、子どもはその得点に届かない。そこで親はあることを思いつきました。寄付をすることにしたのです。『2000万ドル寄付をしましょう。私の子どもを入れてくれたらね』と持ちかけたのです。この親のオファーを受けて、寄付を受ける代わりに得点に届かない子どもを入学させるのは正しいことでしょうか?」

 この質問に答えた次の“学生”は、ブログ「404 Blog Not Found」の書き手として知られる小飼弾さんだった。

ダン 「ダンといいます。私には本当に娘が2人いるのですけれど……私なら、寄付をしてぜひ自分の娘を入れたいですね! その学校の校長の立場に立ってみましょうか。2000万ドルの寄付があったら、定員数よりも、もっとたくさんの学生を入れられますよね。試験で入るはずだった人数は全部入れた上で、私の娘を入れればいい。そうすれば、代わりに落ちる子はいません。そして、寄付金を使って施設を増やしたり、良くしたり、新しく先生を雇ったり……寄付金のおかげでもっとよい教育ができるようになるでしょう? 誰も損はしない。むしろ得をするのだから、いい提案のはずですね」

サンデル 「ダンは面白い提案をしましたね。確かにそれなら、誰も自分の娘を入れたからと言って犠牲になる人はいない。これは正しくない、という人の意見を聞いてみましょう」

アキヒロ 「アキヒロです。私は反対です……寄付をすれば点が届かなくても入れる、そういうことにしてしまったら、それは、入れない生徒が出てくるということです」

サンデル 「それはダンは分かっていましたよ。ダンは先回りをして、2000万ドルのお金でもっと学生を取ればいいといいました」

アキヒロ 「それはそうですが……でも……うーん、学校の品格が落ちると思います」

サンデル 「どうでしょう、ダンは反対するでしょうね。だって奨学金を与えるのだから、貧しくて優秀な学生をとれるようになる。……ほかの人は?」

カン 「カンといいます。道義の問題だと思います。お金を払えば入れると言うことになれば、ルールを破ることになる」

サンデル 「ルールですね。ではどうでしょう、ダン校長の学校のルールは「普段は成績の良い生徒を入れる。だけどときどきは、それほど成績がよくなくても、お金がある人の子どもを入れる」というものなんです。寄付金をもらって生徒を入れても、ルールを破ったことにはなりませんよ?」

ヒロミ 「ヒロミです。アメリカは資本主義の世界なのだから、大学も資本主義になるのはある程度仕方ないことなのかもしれません。でも、学力をモノサシにして学校に入れるかどうかを決めるのは公平なことだと思うのです」

サンデル 「ある調査があります。年収が1200万~1500万円ある豊かな親を持つ学生グループと、親の年収が200万円以下の学生グループを比べると、豊かな親を持つ学生たちのほうが約30%学力がいいというのです。親が裕福かどうかで子どもの学力が決まっている、その学力で学校に入れるかどうかを決めるのは、すでに公平ではないと言えませんか?」

ヒロミ 「……その事実は認めます。それは公平ではないけれど事実です。でも、学校の入学をできるだけ純粋に学力に基づかせるということは、公平さを保つために必要で、守るべきことではないでしょうか?」

ジュンコ 「ジュンコといいます。基本的なことをまだ話していないと思います。それは、金(カネ)のことです。金が違いを生み出し、多くの問題を起こします。これはアンフェアだと思うのです。最初のチケットの例はいいと思うのです。私は、お金をどう使うかということが大事だと思うからです。お金を使った人が満足していればいい。しかし、教育のことや命のことは、お金以外でなんとかすべきことではないでしょうか。豊かさで何でも買えるということになったら……将来、金があれば延命できるようになるかもしれない、永遠に美を持たせることができるかもしれない。それはアンフェアではないでしょうか?」

 だいたい意見が出そろったと見て、まとめに入った。

サンデル 「今までの議論をまとめてみましょう。チケットなど娯楽については、あまり反対がいないようでした。市場が成り立ってさえいればいい、と。逆に医療は反対する人が多かった。教育はその中間に位置するようでした。医療など、命や人間の繁栄に関わることは、市場で売買することを何でもよしとしてはいけないということですね」

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