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» 2010年09月16日 13時00分 公開

マイケル・サンデル教授の特別講義「Justice」に出席してきたこれからの「正義」の話をしよう(5/7 ページ)

[吉岡綾乃,Business Media 誠]

男女の産み分けは許されるか?

サンデル 「それでは、もう1つのテーマに移りましょう。男女の産み分けができるようになってきました。不妊治療の一環で、スクリーニングができるようになったのです。ほとんど100%、男の子も女の子も望んだ子どもを生めるようになったのです。みなさん、これは間違っていると思いますか?」

ゴーヘイ 「ゴーヘイです。僕は、産み分けは間違っていると思います。親は生まれるまで(子どもの性別を)知らなくていい。赤ちゃんが生まれてきたときに、男の子だ、女の子だと驚くべきじゃないでしょうか」

サンデル 「なるほど、ゴーヘイは驚きたいんですね(笑)。でもねゴーヘイ、産み分けたいと願う人はたくさんいるんですよ。男の子しか欲しくない、女の子しか欲しくない、そういう人はたくさんいます。それでもなぜ産み分けはいけないと思うのでしょうか?」

 次に答えた人は、親それぞれではなく社会全体に着目して発言していた。男女の産み分けを認めるのは、個人にとっては良いかもしれないが、全体で考えるととても恐ろしいことである。例えば男性ばかり生ませて軍隊を作ったり、女性ばかり生ませて組織的に売春をさせたり……もしそんな社会が実現したとしたら、それはとても恐ろしいことだ、という意見だ。

サンデル 「自分に子どもができたときに、そこまで親は考えるでしょうか? では、法律によって禁止するというのはどうでしょう?「男ばかり生ませて軍隊を作ったり、女ばかり生ませて売春婦にしたりしてはいけない」という法律を作って禁じるのです。それならそんな社会にはならないし、実際には、男の子を欲しい人も女の子を欲しい人もいるでしょうから、そう極端なことにはならないでしょう。親が自由に選択できては、なぜいけないのでしょうか?」

学生と対話をしながら講義は進んでいく

エイジロウ 「エイジロウです。(産み分けを許せば)親の選択の自由は実現できているかもしれないが、胎児には自由がありません。男で生まれたいとか女で生まれたいとか、親が決めてしまったら、生まれてくる子供に選択の自由がなくなります」

サンデル 「エイジロウ、あなたは生まれてくるときに『男に生まれたい!』と願って生まれてきたの?(笑)ほかの意見も聞いてみましょう。誰かいますか?」

カメ 「カメタニといいます。医師です。男女の産み分けは、人間の世界でしてはいけない『殺す』につながります。男を望む、女を望む、ということになれば、そうではない場合は(胎児を)殺すことになります」

サンデル 「産み分けを超音波でする方法があります。多くの国では超音波を使って胎児の性別を見分け、望んでいない性別のばあいは中絶させてしまうということをしている。カメ、これが殺すという例ですか?」

カメ 「ええ」

サンデル 「ではもう1つ、中絶をしなくていい男女産み分けの方法があります。胚のスクリーニングをするのです。受精後、まだ胚の状態のときに(胎児にはなっていない)、男の子になる胚か女の子になる胚かを選びます。残りの胚は捨てるようにする、カメ、これも殺すということになりますか?」

カメ 「はい、そう思います」

サンデル 「では、違う産み分けの方法を紹介しましょう。男性の精子の段階で染色体をみて選別するのです。これだと胚を捨てたり殺したりしなくていい。これでも殺したことになりますか?」

カメ 「(ちょっと考えて)その意味では、殺したことにはなりませんね。ただ私の意見は……産み分けは、人間が性別を決めることは間違っているというという意見なのです。その信念から(染色体選別であっても)反対です」

 産み分けは悪いことばかりでもない、という意見もあった。例えば戦争や疫病の流行によって男ばかりの社会や女ばかりの社会になったときに、遺伝子工学を使って男女の比率を整えることが可能になるかもしれない、という考え方だ。

サンデル 「エイジロウ、あなたは自分で男になりたいと思って生まれてきたわけではないですよね?」

エイジロウ 「確かにそうです……でも、親が子どもを選べるのは、道徳的にいけないと思います」

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