今、あなたの周りに精神的なストレスを抱えている人はいませんか? 自分を追い込まず、仲間を失ってしまわないためには、事前の心のメンテナンスが大切です。「聞く」をテーマに、自分や仲間の「心のケア」について考えてみましょう。
約2兆7000億円――。これは厚生労働省がまとめた、2009年の1年間における「自殺・うつ対策の経済的便益(自殺やうつによる社会的損失)」ですが、衝撃的な数字です。
2010年版自殺対策白書によると、日本では12年連続で自殺者が3万人を超えています。その原因の多くはうつ病に関係があるとみられています。
この実態を踏まえ、厚生労働省は自殺・うつ病等対策プロジェクトチームを組み、職場の定期健康診断に併せて、うつ病をチェックする方針を決めました。それだけ、事態を深刻に見ているのでしょう。
うつ病は、風邪のように薬を飲めばすぐに治るものではありません。長期休暇や復職、その間の給与を含め、本人にとっては深刻な問題です。また、職場への影響も少なくありません。社員が倒れることで仕事の段取りが変わり、周囲への負担も掛かります。だからこそ今、当事者だけの問題にせず、職場全体で対応することが求められているのです。
ところで、健康を保つためには何が大切なのでしょうか。例えば、健康な歯を保つには、定期的な健診が必要です。けれども、何より大切なのは、毎日歯磨きをすることです。うつ病も同様に、早期発見(うつ病に「なった後」の対応)に加え、「なる前」の対応が何よりも大切ではないかと筆者は考えています。
うつ病に「なる前」の対応とは何でしょうか。それは、自分の心のケアとうつ病になりにくい職場作りです。そこで今回は「聞く」というコミュニケーションをテーマに、自分や仲間の「心のケア」について考えてみます。
リーダー層に加え、スタッフの皆さんでも、職場の雰囲気や環境、人間関係を改善し「自分にとって働きやすい職場」を作っていくために、すぐに実践できるヒントを記したのが、『「職場がツライ」を変える会話のチカラ』(竹内義晴 著)です。本連載では、同著の一部を加筆・修正し、掲載しています。
今、あなたの周りに精神的なストレスを抱えている人はいませんか? もしかしたらあなた自身も、職場内の人間関係や将来の不安などから、何らかのストレスを抱えているかもしれませんね。
伸縮力のあるバネだって、限界を超えるまで伸ばしてしまうともう元には戻りません。人間の心も同じではないでしょうか。
そうなる前の心のメンテナンスが大切なんです。自分を追い込まないために、そして、仲間を失ってしまわないために。
今回は「話を聞く」ことを中心に、自分や仲間の心のケアについてお話しします。
わたしたちの周りは、たくさんの「しなければならない」で溢れかえっています。そして仕事や生活をするうえで、自分の思いとは裏腹に、「しなければならない」を優先することがたくさんあります。
のびのびと生きるには、「自分の思い」がもっとも大切なはずなのに、周りに自分を合わせてしまうのは、幼いころから、
「『したい』ことよりも『すべき』ことを優先するほうが正しい」
「『したい』ことを上手に我慢できる人は立派な人なんだ」
「○○ちゃんも頑張っているんだから、あなたも頑張りなさい」
などといわれながら生き方を学んできたわたしたちにとって、仕方のないことなのかもしれません。
人はみな自分の思いを大切にして、ワクワクご機嫌でいたいし、安らいだ気持ちでいたいはず。けれども、このような気持ちでいられる日が1年のうち何日あるでしょうか。
バックしている車を直進させるには、いったん車を止めてからギアを入れ直します。当たり前のことです。
けれどもこれが人の話になると、心がマイナスにあるときにいったん止まることなく、「へこたれるな! 頑張れ! もっと頑張れ!」といきなり心をトップギアに入れようとします。
しかしそれがなかなかできないことを、わたしたちは知っています。
無理にトップギアに入れようとすることで、「ポジティブにがんばりたい。でも……」と現実のネガティブさにより目が行きます。それに、無理にトップギアに入れると車のギアが痛んでしまうように、心も痛んでしまいそうです。
心がマイナスの状態なら、いきなりプラスにしようとせずに、まずはいったん止まり、ゼロに戻すことを考えましょう。それが心にやさしいケアとなるのです。
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