コジツケをすると、例えばこんな名前を思い付くかもしれません。
「甘酸っぱい果物科」
植物学者が聞いたら「そんなもん、あるわけねえ!」と失笑されそうな名前ですが、それでもこういう名前を「自分で考える」ことに意味があります。それはなぜか、を知るために次の2つの事例を比べてみましょう。
4種の植物が何科に属するか、と聞かれたときに、
とします。さて、その後はこの話題を封印し、1年経ってから、
「1年ぐらい前に、4種類の植物の植物分類聞いたよね? あのときの4種類全部覚えてる?」と聞いたとしましょう。こんなふうに時間が経ってから思い出そうとすると記憶をさぐる必要がありますが、このときAさんとBさんでは違う種類の記憶メカニズムが働きます。
「分かりません」と答えて「実は、バラ科です」と教えられ、「あ、そうなんですか。はい」と淡々と聞いただけのような場合は「意味記憶」になります。意味記憶は覚えようとする努力を何度も繰り返さないとすぐに忘れます。
一方、エピソード記憶は「体験」の記憶です。「甘酸っぱい果物科」というコジツケをするためには、4種類の植物に関していずれも甘みと酸味がほどよくバランスのとれた果物であることに「自分で気付く」必要があります。つまりそれは1つの体験であり、「探索と発見のストーリー」になっています。
「これってみんな甘酸っぱいよな」という発見や、「うわ、ばかな名前を付けて笑われちまった」エピソードはいずれも「感情をともなう出来事」になり、エピソード記憶として記憶されやすいわけです。
というわけで、Aさんはエピソード記憶から、Bさんは意味記憶からそれぞれ記憶を引き出すことになります。
この2種類、どちらがいいとか悪いとかいうことではなく、両方がうまく連携が取れることが一番いいんですね。例えばAさんが「うわ、ばかな名前を付けて笑われちまった」と思ったあとで「実は、バラ科なんですよ」と教えられると「へえーーー!!!」と思うことでしょう。この「へえーーー!!!」が記憶の定着には重要です。「イチゴはバラ科」という意味記憶を「へえーーー!!!」という感情をともなう体験にリンクさせると忘れにくくなります。
一方、Bさんは「実は、バラ科です」と科学的事実を教えられていましたが、こちらの方も例えばこんな教え方をする方法があります。
現在の観賞用のバラと違って、バラの原種はリンゴやサクラと同じ「5枚花弁」なんですね。
同じ「イチゴはバラ科」という事実を教えるのでも、こういった「探索と発見のストーリー」をともなうと、エピソード記憶と意味記憶が連携しやすくなり、記憶に残るようになります。
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