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» 2012年07月18日 17時10分 公開

説明書を書く悩み解決相談室:コジツケでもいい、自分で考えることに意義がある (2/3)

[開米瑞浩,Business Media 誠]

「コジツケ」はエピソード記憶に残りやすい?

 コジツケをすると、例えばこんな名前を思い付くかもしれません。

 「甘酸っぱい果物科」

 植物学者が聞いたら「そんなもん、あるわけねえ!」と失笑されそうな名前ですが、それでもこういう名前を「自分で考える」ことに意味があります。それはなぜか、を知るために次の2つの事例を比べてみましょう。

 4種の植物が何科に属するか、と聞かれたときに、

  • Aさんは「甘酸っぱい果物科」とコジツケて名前を付け
  • Bさんは「分かりません」と答えて、先生から「実は、バラ科です」と教えてもらった

 とします。さて、その後はこの話題を封印し、1年経ってから、

 「1年ぐらい前に、4種類の植物の植物分類聞いたよね? あのときの4種類全部覚えてる?」と聞いたとしましょう。こんなふうに時間が経ってから思い出そうとすると記憶をさぐる必要がありますが、このときAさんとBさんでは違う種類の記憶メカニズムが働きます。

自分で考えたかどうかが後の記憶を左右する

  • エピソード記憶:個人的な体験に関する記憶。1回限りの出来事でも記憶する。感情をともなう出来事、ストーリーのある出来事は記憶されやすい。「暑い夏の日、遠足に行って食べたアイスクリームがおいしかった」などの記憶がエピソード記憶
  • 意味記憶:科学的、歴史的事実などに関する記憶。「水は酸素と水素の化合物」「関ヶ原の戦いは1600年」などの記憶が意味記憶。記憶しようとして繰り返しなぞることによって記憶される。

 「分かりません」と答えて「実は、バラ科です」と教えられ、「あ、そうなんですか。はい」と淡々と聞いただけのような場合は「意味記憶」になります。意味記憶は覚えようとする努力を何度も繰り返さないとすぐに忘れます。

 一方、エピソード記憶は「体験」の記憶です。「甘酸っぱい果物科」というコジツケをするためには、4種類の植物に関していずれも甘みと酸味がほどよくバランスのとれた果物であることに「自分で気付く」必要があります。つまりそれは1つの体験であり、「探索と発見のストーリー」になっています。

 「これってみんな甘酸っぱいよな」という発見や、「うわ、ばかな名前を付けて笑われちまった」エピソードはいずれも「感情をともなう出来事」になり、エピソード記憶として記憶されやすいわけです。

 というわけで、Aさんはエピソード記憶から、Bさんは意味記憶からそれぞれ記憶を引き出すことになります。

エピソード記憶と意味記憶の連携がとれることが大事

 この2種類、どちらがいいとか悪いとかいうことではなく、両方がうまく連携が取れることが一番いいんですね。例えばAさんが「うわ、ばかな名前を付けて笑われちまった」と思ったあとで「実は、バラ科なんですよ」と教えられると「へえーーー!!!」と思うことでしょう。この「へえーーー!!!」が記憶の定着には重要です。「イチゴはバラ科」という意味記憶を「へえーーー!!!」という感情をともなう体験にリンクさせると忘れにくくなります。

 一方、Bさんは「実は、バラ科です」と科学的事実を教えられていましたが、こちらの方も例えばこんな教え方をする方法があります。

  1. イチゴ、リンゴ、ナシ、サクラのそれぞれの花の写真を見せる
  2. すると、いずれも花びらが5枚で花の形も似ていることに気が付く
  3. 「あ、これは確かに同じ系統の植物なんだろうな」という解釈に説得力が出てくる
  4. 次に、同じように5枚の花びらを持つ別の花の写真を見せる
  5. 「ひょっとしてこれも同じ系統の植物?」という疑問が起きたところで
  6. 実はこの花はバラの原種である、と説明
  7. 「つまり、実はみんなバラ科なのです」と謎解き

 現在の観賞用のバラと違って、バラの原種はリンゴやサクラと同じ「5枚花弁」なんですね。

 同じ「イチゴはバラ科」という事実を教えるのでも、こういった「探索と発見のストーリー」をともなうと、エピソード記憶と意味記憶が連携しやすくなり、記憶に残るようになります。

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