「当社は、社員の家族を大切にする会社です。大きい会社ではないので、率直に言って、給料は大企業に比べて少ないかもしれません。でも、その分家族手当を充実させています。これは経営者が『社員のみんなに、いい家庭を築いてもらいたい』と願っている、その現れなんです」
以前見かけた企業の社員募集ページに、このような記載がありました。なるほど、従業員だけじゃなくて、その家族を大切にしたいから「家族手当」を充実させているわけですね。少子化が叫ばれて20年以上経つのに有効な対策が打てない日本政府にくらべて、何と行動的な会社でしょうか。また、この文面からも社員を大事にしたいという雰囲気が伝わってきます。
しかし、ここで「何ていい会社だ!」と思うのは、ちょっと早いかもしれません。
この会社が言っているのは「給料は安いが、家族手当は充実している」ということです。そして、モデル賃金をくわしく読むと、基本給が他社より安い分家族手当が多く、合計すると同じ程度の水準になっていました。
「じゃあ手取りは同じということだ。やっぱりいい会社だ!」と思ったとしても、「いい会社」ではない可能性があるのです。扶養家族がいない人には、厳しい条件かもしれませんが、一見特に問題はないように思います。しかし、そうではないのです。
この会社のどこが問題なのか? ポイントは残業代、退職金、ボーナスです。
残業をすると、割増賃金をもらえます。このときの時給は「労働の時間単価」に割増率をかけて計算します。式で表すと以下のようになります。
時間単価=(基本給+諸手当)/1カ月の平均所定労働時間
ただ、この「諸手当」には、個々の事情に応じて金額が変わる手当は含まれません。つまり、各自の自宅からオフィスまで実費でかかる「通勤手当」や、家を購入した人だけに補助をする「住宅手当」などは、残業代を計算するときに考慮されません。そして、扶養家族の人数によって支給額が変わる「家族手当」も、同様に残業代に考慮されません。
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