プロフェッショナルとして活動している私たちインディペンデント・コントラクター(以下、ICという)は、「クライアントファースト」を実践するためには、高度な専門性を有していることが前提となります。では、高度な専門性とはどのレベルを差すのでしょうか?
核となる専門領域を掘り下げて、その領域では第一人者である「エキスパート」であることが必要でしょうか? もちろん、他を圧倒する高度な専門性を持つ「エキスパート」として認められれば、クライアントの数が増えるだけでなく、様々な団体から講演や執筆等の依頼も増えていくことでしょう。セルフブランディングの確立にも有益です。
一方で、核となる専門能力を待ちながら、周辺関係領域についても(時にはまったく関係ない領域についても)知識・経験を積み重ね、その結果、高度な専門性をもつ「エキスパート」ではなく、幅広い専門知識を持ったビジネス・アドバイザーとなりうる「ディープ・ジェネラリスト」を目指す道もあります。
私は会社員時代に、営業と人事をそれぞれ10年ずつくらい担当しましたが、人事部の上司から「専門性は少なくとも2つはあったほうがよい」と言われました。1つだけだと、どうしても視野が狭くなりますし(専門バカと揶揄されることもあります)、クライアントへの提案の幅が広がらなくなるからです。
私は、(経験に裏打ちされた)高い専門性が絶対に必要であることを前提に、クライアントからのあらゆる相談に対応できる「ディープ・ジェネラリスト」を志向するほうが、クライアントへの貢献度も高く、良い関係性を継続するのに適していると思います。
専門性の他に必要なものとして、対人関係能力が挙げられます。仕事を長く続けるためには、専門性よりもむしろこれらのほうが重要です。
受容力とは、今、現に関わっている相手の感情状態を理解し、受け入れることです。自分の想いを適切に伝えられても、それに対する相手の想いが理解できなければ、一方的な働きかけに終わってしまいます。これでは、将来にわたる良好な関係を築くことはできません。
相手に受け入れてもらうには、まずは、こちらが相手の感情を受け入れる必要があります。相手を受け入れれば、こちらの考えや主張が、相手に受け入れられやすくなります。受容力を持った人物は、このことを心得ていて、決して一方的に自分の考えを押し付けたりはしないものです。
人は誰に対しても無差別に自分の感じていることを伝えるわけではなく、 受け入れてくれそうな相手を選ぶのです。つまり、相手の感情を受け入れてあげたいと思っても、そのような人物として、こちらが選ばれなければ話にならないのです。
相談を受ける場合には、相手の立場に立ってとにかく相手の話をよく聴くことが大事です。謙虚な対応を心がけることも必要です。
これまでの様々な経験を通じて思うことは、「人の話をじっくりと最後までよく聴く」ことの重要性です。話を聴くことのできる人は、信頼関係を構築することができる人だと思います。
人間力とは、相手を中心に考え、自分を律し、人のために生きる覚悟ができており、先を見通す論理性と人間の機微が分かる感性がある人が持つ「人間としての総合的な魅力」と言えるかと思います。
この「人間力」に必要な要素には様々なものがありますが、1つだけ挙げるとすると「絶対的な信頼感」ということになろうかと思います。
まず他人から信頼される人物でなければなりません。どんな人ともいやな顔をせずコミュニケーションを取ることができ、口が堅く、絶対に相手を裏切らない、バランス感覚に優れ、思考に柔軟性をもっていることが必要です。
田代コンサルティング代表取締役 社会保険労務士
1961年福岡県生まれ。1985年神戸大学経営学部卒。同年川崎汽船入社。入社後営業部配属。その後、1993年に人事部へ異動。同部人事課において人事制度改革・教育体系の抜本的改革を推進。2005年同社を退職し、社会保険労務士田代事務所を設立。2006年株式会社田代コンサルティングを設立し、代表取締役に就任。2010年特定非営利活動法人インディペンデント・コントラクター協会(IC協会)理事長に就任。
人事労務分野に強く、独立後も引き続き川崎汽船株式会社の人事部の業務の一部を請け負いつつ、各社の人事制度の構築・運用をはじめとして人材教育にも積極的に取り組んでいる。豊富な実務経験に基づき、講演、執筆活動の依頼も多く、日々東奔西走の毎日を送っている。著書に「はじめての人事社員の実務と心得」(経営書院、2011年)、「なぜか会社も社員も気がつかない新しい働き方 人材開発会議」(企業年金研究所(現:日本生活設計)、2007年)がある。
インディペンデント・コントラクター協会(IC協会)理事長
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