まずは“身近なものを数字に置きかえる”――会計を生かして“やりたい仕事”に近づこう仕事力を高める会計の「知恵」(1/2 ページ)

実は“会計学”には仕事に役立つヒントがいっぱい。まずは数字を身近なものに置き換えるところから始めてみては──。社会人なら知っておきたい会計の基礎知識を楽しみながら身につける方法を、会計士の眞山徳人(のりひと)さんと平林亮子さんに聞きました。

» 2014年05月23日 11時00分 公開
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対談「仕事力を高める会計の「知恵」」について

『江戸商人・勘助と学ぶ 一番やさしい儲けと会計の基本』 『江戸商人・勘助と学ぶ 一番やさしい儲けと会計の基本』(眞山徳人/日本実業出版社)

仕事をしていく上で、「もうかったかどうか」を意識するのは重要なこと。つまり、仕事に関わる“数字”をつかんでおくことが大事です。ただ、会社が社員それぞれの仕事の成果をまとめて“数字”で表すために用いる「会計」について学ぼうとしても、その専門性の高さが壁となり、ついつい及び腰になりがちです。そんな会計ともうけのしくみを、江戸時代の丁稚を主人公にストーリー仕立てで分かりやすく解説するのが、書籍「江戸商人・勘助と学ぶ 一番やさしい儲けと会計の基本」です。

この本の著者である公認会計士の眞山徳人氏と、会計に関する著作を含め30冊以上を世に送り出す公認会計士の平林亮子氏が、社会人なら知っておきたい会計の知識を楽しみながら身につける方法を4回にわたって紹介するのがこの対談。営業パーソン、バイヤー、マーケッター、生産管理担当など、管理部門以外の人にも即効性のあるヒントがいっぱいです。(聞き手:『江戸商人・勘助と学ぶ 一番やさしい儲けと会計の基本』編集担当 蔵枡卓史氏)


―― 眞山さんが著書『江戸商人・勘助と学ぶ 一番やさしい儲けと会計の基本』の中で指摘しているように、会計は経理スタッフだけでなく、営業スタッフやバイヤー、債権回収担当者、生産管理担当者、あるいはマーケティング担当者など、さまざまな職種の人々に役立つことを、書籍を担当させていただいて実感しました。ビジネスパーソンが会社の数字に"自分も関わっている"という意識を持つだけでも、ずいぶんと見方が変わるのですね。

眞山徳人氏 眞山徳人氏

眞山氏: そうですね。例えば、新入社員でもその意識は大切ですよ。本の中で、外回りをし始めた丁稚の勘助が上司である旦那様から、「毎月自分の給料の何十倍もの売上を上げなければならない」と言われて、納得できないというシーンがあります。勘助は自分の給料分を稼げば良い、という意識でした。しかし、商品である着物の代金には自分の給料以外にも、着物の仕立て代、着物にする反物を仕入れる際の船賃などの費用がかかるわけです。

 その辺のつながりが分かっていれば、新入社員はどうして自分が給料をもらえるかが見えてくるでしょう。営業スタッフやマーケティング担当者は仕事への取り組み方に大きな違いが出てくるはずです。

平林氏: 営業スタッフは数字に対する意識を持っていたほうが、お客さんのこともより深く考えられるようになりますよね。自分が売りたい商品の代金は、お客さんにとってはコストです。その意識があれば、お客さんに対する提案方法を工夫するようになるでしょう。「単なるコストじゃないんですよ、こういうところが役に立つんです」とお客さんにとってのメリットを考えてしっかりと伝えることができるはずです。

 さらに経験を積んで、経営マネジメント層にセールスする場合、「御社の経営に○○の理由で少なくとも○○万円のメリットが見込めます」といった説得力のある話し方ができます。そのほうが、良い反応が返ってくるのは当然ですよね。

―― 会計の基礎知識を知っていればお客さんのためになる、という発想は面白いですね。一方で、数字ばかり気にして、変に頭でっかちになるような感もあります。

眞山氏: 例えば、毎月の会議などで業績が報告されると思いますが、売上に関わる数字しか見ていないという場合は危険ですよね。本の第1章でも触れているのですが、勘助がノルマの達成を焦り、反物を安く売ってしまったシーンがあります。いまでも珍しくないことなのですが、営業スタッフが自分の売上に関わる数字、成約数や受注額ばかりを追いかけるあまりに、気がつくと原価より安く商品を売ってしまうケースがあるんです。

―― ノルマの達成ばかりを考えていると、もうけの出ない金額で商品を売ってしまったりするんですね。

眞山氏: そうです。ただ、それは営業に限った話ではありません。例えば、商品の設計担当者が値ごろ感を持っておらず、単純に部品代を積み上げていって商品の価格を100万円に設定しても、ライバル会社は似たようなスペックの商品をもっと低価格で売っているなんてことがある。当然、価格競争で負けてしまいます。市場ではその商品にどのくらいの値打ちがあるのか、そのためにどこを削って原価を抑えるか、という感覚をもっているかどうかが設計担当者としてのスキル、力量の差になるのです。

―― なるほど。とはいえ、やはり眞山さんが著書の冒頭に書かれていたように、通常、一般のビジネスパーソンの多くは、"会計は難しい"というイメージを抱いています。私自身もいまだに苦手意識が強い。数字の羅列だけの世界に見える会計には「実態がない」と感じてしまうんです。

眞山氏: 一般のビジネスパーソンの方が、「会計とビジネスがつながって見えない」というのは理解できます。最近の企業会計では、決算書の開示ルール、つまり決算書に記載すべきことがややこしく決められています。このイメージが世間に広まっているのでしょう。あたかも会計は、「経理部門がごちゃごちゃと手を入れたもの」と思われている面もあると思います。

平林亮子氏 平林亮子氏

平林氏: 「ごちゃごちゃと手を入れたもの」というのは言い得て妙(笑)。確かに、決算書の数字とビジネスとの直接的な関連性が見えにくくなっていますね。

眞山氏: それに加えて、良く見かけるようになった「○○ホールディングス」といった組織では、たくさんの子会社がさまざまな事業を手がけています。例えば、ビジネスモデルの異なる飲食業や不動産業、出版業などの実績が1つの決算書上にまとめられており、当然、その中身は複雑です。

 こうしたことが相まって、一般のビジネスパーソンは会計に対する"アレルギー"のようなものを感じてしまうのでしょう。

 会計の入口としては、シンプルなところから始めるのが大事です。例えば、個人経営の小さなお店で、どのようにお金が流れているのかといったこと。私が簿記検定の勉強を始めたときのテキストは、「八百屋の○○商店が数種類の野菜を10万円分購入しました」という具合に、非常にとっつきやすいテーマから入っていました。つまり、足し算やかけ算ですね。

―― いわば会計の「算数」の部分ですね。いきなり最近の企業会計のような高度なレベルの「数学」から始めるのではなく。

眞山氏: そうです。算数に“九九”のような基礎があるように、会計学にも基礎となる部分があるんです。それは四則演算のように、決して難しいことではありません。そこからスタートしていなかったら、私だって現代の難解な会計基準を理解することはできませんよ。

 ただ、一般のビジネスパーソンが専門的な会計基準まで学ぶ必要はないんです。できれば決算書の内容が分かるくらいの会計の基礎知識を身につけておけば仕事に役立ちますし、決算書も読めるようになります。

―― 会計の「算数」を知っていれば、決算書の内容は理解できるようになるんですね。ただ、決算書には大きな数字が多く、その数字に至るまでの流れが全然イメージしづらいです。

平林氏: まず決算書に記載されている数字を身近なものに置き換えるところから始めてみるといいですよ。

 例えば自動車メーカーは大きな企業が多いので、当然、それらの決算書には数千億、数兆円単位の数字が並びます。こうしたことが"数字の意味が分からない"と思われる一因なんでしょう。そこで売上高であれば、「今人気のあるハイブリッドカーの何台分になんだろう」と置き換えてみるんです。もし、そのクルマが好きで、購入したいと思っていたら身近に感じられませんか?

 カーディーラーの店頭に展示されているクルマの値段を確かめて、売上高をその値段で割ってみると、想像もできない巨大な数字が、「あのクルマの数百万、数千万台分」といったように、ある程度イメージが湧く数字に変わります。

 もちろん、その数字は現実ではありません。自動車メーカーはいろいろな車種をラインアップしていますし、それ以外の製品、サービスをお客さんに提供しています。その結果が莫大な売上になっているのですから。でも、まずは"自分が分かること"や"興味のあるところ"に焦点を当てることで会計やその数字がグッとイメージしやすくなるんですね。

 本屋さんも身近に感じやすいのではないでしょうか。例えば、眞山先生が書かれた今回の本の価格は1300円。「何冊以上売れたら出版社はもうけることができるんだろう?」という感じで見てみると……。眞山先生、たくさん本を売らなきゃなりませんね(笑)。

眞山氏: プレッシャーかけますねー……(苦笑)。

 ただやはり、平林先生の言うように、置き換えで感覚をつかめるようにすることが大切です。例えば、広さを考えるときには、「東京ドーム何個分」といった表現をしますよね。

 決算書には「給与」の項目もありますから、自分の年収だったら何年分だろうと置き換えてみる。大企業の場合、数百年、数千年分なんて数字が出てきて、「長生きしなきゃなー」と思うかもしれません(笑)。しかし、それだけの売上を社員みんなでがんばって生み出していると分かると、どんな感じがしますか? 会社のダイナミックな一面を実感できるのではないでしょうか。

平林氏: 決算書に示されるような会計の数字は大きいものですが、ミクロレベルで見ると当然、自分の給料だったり、商品1点1点の代金の積み重ねででき上がっているんです。そうしたことを念頭において、自分が想像できるもので捉えてみると、面白く感じらると思いますよ。

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