相手の話を聞いているようで、実は聞けていない――。そんな上司は意外と多い。自分の経験や知識が邪魔をし、ろくに話を聞きもしないで相手にアドバイスしてしまうのだ。ついそんな態度をとってしまう人に有効な3つのコツがある。
他人の話を聞いているようでいて、実はあまり聞けていない――という人は、案外多い。ビジネスシーンでもありがちで、研修の仕事をしていると、そんなマネージャーに会うこともしばしばだ。もちろん、彼らとしても話を聞く気がないわけではないのだが、聞き役に徹することができないのだ。
社内のポジションが上がっていくと、我慢して人の話を聞くことは少なくなり、自分の言いたいことを表明する機会がどんどん増える。そうするうちに聞くことがおろそかになり、しゃべってばかりいるという事態に陥りやすい。
研修で「部下の話をきちんと聞いてみよう」というロールプレイをすると、こんな展開になってしまうことが少なからずある。部下が上司に仕事の悩みを話すという設定だ。
部下: 最近、悩んでいるんです。
上司: ……ふむ。
部下: クライアントの要望が厳しくて、ちゃんと対応できるかどうか心配で……。
上司: ああそれ、よくあることだね。でも仕事ってのは厳しいもんだしなぁ。
部下: それはそうなんですけど……。
上司: 大丈夫だよ! 君を見込んで担当してもらっているんだから。クライアントの言うことをきちんと一度整理してみたらいいと思うよ。
部下: はい……。それはそうですね。
上司: ま、頑張ってよ。期待しているから。
この“上司”は、“部下”の悩みを聞いているようでちゃんとは聞いていない。「仕事とはそういうもの」「君を見込んで担当を任せている」「一度整理してみたらいい」と自分で解釈して判断し、一方的に考えを伝えている。上司として、自らの考えや思いを伝えることは悪いことではないが、部下が伝えたいことを聞き出せていないため、部下の気持ちをまるで理解できていないのだ。
このやり取りでは、部下は「気持ちを分かってもらえなかった」「面倒だから、そそくさと話を打ち切ったのかな」とがっかりしている可能性が高い。もしかすると、あとでこっそり同僚同士で「今日も話を最後まで聞いてもらえなかった」などと愚痴を言っているかもしれない。よかれと思ってアドバイスしたのに、こうなると上司もツラい。
こういうときは上司役の人に「最後まで口を挟まず、黙って話を聞いてみませんか?」と促してみるのがセオリーだ。するとこんな答えが返ってきた。
上司役: え? ボク、聞いてなかったですか? ちゃんとしっかりやってね、とはっぱをかけたつもりなんですが、それじゃダメなんですかね。
田中: いえ、はっぱをかけるのはいいんですけど、もう少しきちんと聞きだしたほうがいいと思うんです。まだ部下は言いたいことを伝え切れていないと思うんです。何が悩みなのか、きちんとつかめました?
上司役: お客さんの期待が厳しくて困っているって話ですよね?
田中: 表面上はそうかもしれませんが、もっと奥に何かあるかもしれません。
上司役: でも、どうやって話をつなげればいいのか、分からないです……。
田中: では、今から言う3つのことを実践してみてください。3つ同時が難しければ、どれか1つを意識するだけで構いません。
この上司役のマネージャーは、部下の話を“100%聞ききる”という発想がなかったようだ。相手の話を聞く途中で状況を素早く判断し、とにかく相手にアドバイスを与えるような話し方をしてしまう上司は多い。しかしその考え方が落とし穴なのだ。
私は3つのアドバイスを与えてから、再び同じロールプレイを行った。すると、会話が次のように変わったのだ。
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