「上司から説教されたり、一方的にイジられるだけの飲み会には行きたくない」という人もいれば、「この上司と飲むと自分にメリットがあるかなぁ、というのは考えます。自分にとって有益な情報や新しい発見があるかどうかで判断します」という人もいる。「趣味が同じで話が弾みそう、話題が豊富で一緒に飲んで楽しそう、という上司なら行きたい」「職場を離れ、フラットな立場で仕事や将来について上司と話してみたい」という声も挙がっていた。
彼らの声を聞くと“上司と飲みに行くのが嫌いなわけではない”ことが分かる。彼らに共通しているのは、「何かを得られるか」「互いのことを知るきっかけになるか」「楽しい時間を過ごせるか」ということを重視している点であり、これらをクリアすれば今の時代でも“ノミュニケーション”は成立するだろう。
もし、“若手と飲むのはハードルが高い”と思ったとしても、諦めるのはまだ早い。昔の上司が“飲みの場面”で作っていた人間関係や情報交換は、ほかの手段でも得られるからだ。
例えば、ランチを活用するのも1つの手だ。会社に戻る時間が決まっているためだらだらせずに済むし、職場を離れることでリラックスできるから本音で話しやすい。
もう1つは、職場でもっと“仕事以外の話もしてみる”ことだ。仕事の話の合間に、趣味やプライベートの話を織り交ぜれば、「普段は厳しい上司にも、こんな側面があるんだ」「あの上司がプライベートではこんな趣味を持っているのか」というように、若手が上司のことをより深く理解できる。そこから互いの“人となり”を理解すれば、仕事の会話も交わしやすくなる。
仕事は人間関係で成り立つ部分が大きい。相手の言動を誤解してしまい、パフォーマンスが落ちてしまっている人も多いのではないか。
こうした誤解は相手との信頼や親密さがあれば回避しやすい。例えば、ある人がたまたまその日不機嫌だったとしよう。相手をよく知らなければ、「不機嫌で、嫌な感じの人だな」と思うだけかもしれないが、相手のことをよく知っていれば、「昨日までトラブル対応で奔走していたから、疲れが顔に出ているのかな」などと許容できる。
「ノミュニケーション」を通じて関係を作るのが難しいのなら、代替手段を考えるのが大事だ。手始めに日中、職場でできることから始めたい。
冒頭の50代部長の気持ちは痛いほど分かるが、恐れていては何も始まらない。大事なのは“飲む、飲まない”ではなく、“互いをどれだけ理解できるか”なのだから。まずは身近な話題を持ち出すところから始めてみるといいだろう。
それと同時に、“話題が豊富な上司”であるよう努めることも必要だ。以前、ある人が言っていた。「中年以降は、若い人に付き合ってもらえるような人間にならないといけない」と。
ポジションパワー(地位による力)で誘うのではなく、自分自身の魅力で若い人から誘われる――。そんな上司を目指したいところだ。
グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/産業カウンセラー。
1986年上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタル イクイップメントを経て、96年より現職。IT業界をはじめさまざまな業界の新入社員から管理職層まで延べ3万人以上の人材育成に携わり27年。2003年からは特に企業のOJT制度支援に注力している。日経BP社「日経ITプロフェッショナル」「日経SYSTEMS」「日経コンピュータ」「ITpro」などで、若手育成やコミュニケーションに関するコラムを約10年間連載。
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