会社からはときに、希望しない部署への異動を命じられたり、まったく未知の仕事を与えられることがあります。とくに若い世代が、新しくリーダーとしての仕事を任されたときには、戸惑うことも少なくないのではないでしょうか。
本連載は、金井壽宏著、書籍『「このままでいいのか」と迷う君の 明日を変える働き方』(日本実業出版社)から一部抜粋、編集しています。
「この仕事は、自分に合っているのだろうか?」
「今のような働き方が、いつまで続くんだろう……」
迷いながら働く人のために、キャリア研究の第一人者が、仕事の本質から会社との付き合い方、キャリアの捉え方まで、読者と一緒に考えていきます。
長い仕事人生にはアップダウンがつきもの。ワクワクしながら前向きに取り組める時期もあれば、失敗や思わぬ異動に落ち込む時期もあるのが当然です。
本書では、一般の企業で働く若手14名へのインタビューをもとに、仕事の「モティベーション」、そして「キャリア」の悩みから抜け出し、成長していくための考え方を紹介します。
・いったい自分は、何のために「働く」のか?
・「組織」とどこで折り合いをつけるか?
・これからの「キャリア」をどうデザインするか?
・もっと仕事に夢中になるためには?
など、キャリアの入口、あるいは途中で立ち尽くしている人が、自分なりの「働き方」をつかむための1冊です。
航空会社でキャビンアテンダント(以下CA)を務めるBさんは、入社5年目です。
学生のころ、遊園地でお客さまを誘導するアルバイトを経験し、接客の面白さに魅了されました。そこで卒業後は、「ずっと接客の現場に立てる仕事」に就きたいと考え、ホテル・ブライダル・百貨店などを受けますが、いずれの業種も数年経つとマネジャー的な立場となって、現場から遠ざかってしまうことが引っかかりました。
そんな中で受けたのが航空会社のCA職です。CAならば、マネジャー職になっても現場に立つ機会があると聞き、「ここでぜひ働きたい」と決めたそうです。
実際に働きはじめると、外から見た印象とはかなり異なり、華やかな仕事ではないことを痛感します。お酒に酔ったお客さまの中には、CAが女性ということで横柄な態度で接してくる人もいます。荷物の上げ下ろしなども大変で、海外のお客さまは自分で荷物をしまってくれますが、日本人の中にはやってもらって当然、という人もいます。
入社5年目となり、チーフパーサーという客室を担当する責任者の職に就き、他のCAや機長、地上係員をつなぐ仕事を任されるようになりました。
チーフパーサーは機内のCAのリーダーです。お客さまへの気配りはもちろん、CAたちを統率し、パイロットと協力して航空機を安全に、快適に運行する重要な仕事です。
フライトでは初対面のクルー同士で飛ぶことが珍しくないので、短時間で相手とコミュニケーションをうまくとらなくてはなりません。
サービスやアナウンスの技量がどの程度あるか、どれくらい英語がうまいか、ビジネスクラスを担当できるかどうかなどを短時間で把握して、適切なポジションにそれぞれを配置します。「新人なので、どうぞよろしくお願いします」と先輩に申告すればよかったころとは責任も仕事の幅も大違いです。そのプレッシャーから、辞めたいと思うことも多くなりました。
Bさんはもともとリーダー的なタイプではなかったと自分を分析しています。学生時代には先生から頼まれて生徒会の会長を務めた経験もありますが、そのときは「何でも話せる気のよい先輩」として振る舞っていれば大丈夫でした。
しかし、チーフパーサーになった今では「何でも話せる先輩」ではなく、「威厳あるリーダー」を目指さなくてはいけないと実感しはじめています。
CAはイメージ以上に体力も必要で、いつでもどこでも眠れないと体が持ちません。不規則な生活で自律神経がおかしくなったり、重いものを上げ下ろしすることで腰を痛めて辞める人も少なくない職業です。CAを目指してがんばってきた人ほど、現実の厳しさを知って短期間で辞めやすい傾向にある気がしています。
Bさんは、後輩が「もう辞めたい」などと相談にきたときは、自分の経験談や失敗談を話すようにしています。先輩としての威厳がなくなってしまうかも、とも思いますが「全然たいしたことないよ、私も以前はね……」という話をすれば、後輩も気持ちが楽になると思うからです。
つい最近、Bさんのところに大学の後輩から連絡がありました。CAになりたいというその後輩は、OGである自分の実家の電話番号を大学で調べて、連絡してきたのです。Bさんはその情熱に感心しました。
OG訪問を受けたとき、Bさんは後輩に「楽しいばっかりの仕事じゃないけど、自分を伸ばせる環境が与えられるので、やりがいは大きいよ。挑戦できる人が挑戦しないのは、とてももったいないと思う」と伝えました。体力的につらいことや、華やかな世界ではないことも伝えましたが、目をきらきら輝かせている後輩を前にすると、自然と前向きな言葉が出てきたそうです。
このときの「挑戦できる人が挑戦しないのはもったいない」という言葉は、Bさん自身にもあてはまることでした。リーダーとしての仕事には苦手意識があるけれど、せっかく得た機会を逃すのはもったいない。挑戦してから本当に苦手かどうかを考えてもいいかもしれないと感じました。
BさんはCAの訓練所にいるとき、インストラクターの先生に「ストレスをストレスと感じず、スパイスと感じなさい」といわれました。ストレスはありすぎると大変だけれど、ちょっとくらいないとつまらない。仕事がない人生というのも、つまらないのではないか、とも最近は考えているそうです。
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