集中連載『発想をカタチにする技術』について
本連載は、2013年11月14日に発売した吉田照幸著『発想をカタチにする技術 新しさを生みだす“ありきたり”の壊し方』(日本実業出版社刊)から一部抜粋、編集しています。
どんな会社でも、面白いことは始められる! あの「サラリーマンNEO」を生み出し、「あまちゃん」を担当した異色のNHKディレクターの仕事術!
面白いアイデアを思い付いても、それを伝えて思惑通りに実現していくのはなかなか難しいもの。ともすると「前例がない!」「そんなのできない!」という声にかきけされてしまいます。
そんな中で、会社からも多くの人からも認められるものを作るには「きちんと人に伝えること」「自分の意思を通すこと」でも「独りよがりにならないこと」が大事です。
さらに、そのアイデア自体が画期的であれば、一番です。本書では、30代まで芽が出ず退職を考えていたという、異色のNHKディレクター吉田照幸氏(2013年9月よりNHKエンタープライズ)の番組制作での経験を交えながら、尖っているのに愛される企画の作り方や通し方、アイデアの発想法などを紹介します。
「どんな切り口でやろうか」「何か違う切り口にしないと」ってよくいわれる言葉ですよね。
でも「違う切り口で作りました」といって、ただ言葉や表現が変わっただけになっている、ということもあるように思います。
そもそも斬新な切り口っていうのは、「切り口をどうしよう」で考えたものではないから、それを説明できないのだと思います。
僕が考えるところでは、切り口とは、どういう方向で演出をするか、ということです。1つのものを、こっちから見たらどうかとか、あっちから見たらどうかとか、ということですよね。
例えば円錐があったら、みんなその表面をいかに美しく、きれいに磨くか、ということを考えるでしょう。
でも、ずっとそこを見ていたところで、もう新しい切り口は見つかりません。「みんなできれいに磨く競争」を続けることになって、そこから出られなくなります。まったく無駄な努力です。
本質がつかめないと、「切り口」は見つからない
では、どうやって「切り口」を見つけるのか。
僕がコントやドラマの演出をしていて、切り口を探しているときは、「その物事の本質は何か」ということを、最初に考えます。核が見つからないと、切り口は、見つかりません。
NEOで一番人気だったキャラクター・セクスィー部長の最初の台本は、生瀬勝久さんが演じる予定でした。脚本家は、バーで渋く語るジョージ・クルーニー的なセクシーをイメージしていました。確かに面白い。でも何となく想像できちゃう。
もっとほかの切り口はないかと考えました。
ここで知らない方に説明すると、セクスィー部長は、わがままで身勝手な働く女をセクスィ〜な魅力で、やっつけていくってだけのコントです。面白さは、キャラクターです。でも何度も台本を読んで感じたのは、現代の男にはない、有無をいわせない男の強さがこの台本の本質ではないかと感じました。草食男子という言葉がささやかれる時代です。しかし、そういう強い男に男性は憧れるし、女性も本当は欲している。
つかんだ上でもう一度切り口を再考します。男の強さを表わすセクスィーとは? セクスィーにも色々あるなー、「検索 アメリカで一番セクシーな俳優」→「アントニオ・バンデラス」! これだ! 強いセクスィー、フェロモン満点のセクスィー! ならば……沢村さんしかいない! ということで、セクスィー部長は、渋い男から、フェロモン満点のラテン伊達男に変わったのです。衣装もメイクもバンデラスのイメージそのままです(余談ですが、かつらは巨人の星の花形満です)。
台本は同じでも、切り口が違うとまったく違うものになります。
ここでつかんだことは、セクスィー部長のテーマ曲選びでも役立ちました。
音楽が違うと、びっくりするほど人の見方って変わります。音楽は潜在意識に訴えかけるので、すごくパワフルなんです。
音響の方が音楽を10曲くらい用意してくれ、僕も何曲か提案しました。さまざまな曲をかけながら見ていくと、カッコよく見えるものもあれば、単純に笑えるものもある。特にインド映画にかかる♪ホンジャカホンジャカホンジャカヘ〜みたいな(文章にしても分からないか……)曲は爆笑でした。でも何か違います。迷いに迷って、決断を明日に待ってもらうことにしました。
自宅で色々な音楽に浸りました。ピーンと来た曲が出現しました。ドラゴンアッシュの「El Alma feat. SHINJI TAKEDA」。まさにラテン。しかも力強い。
後にあそこでドラゴンアッシュを使うなんてすごい発想! ってインタビューで質問されました。でも、そもそもラテン的な男の強さという本質を見つけていれば、ドラゴンアッシュの切り口はありえる選択です。
本質を腹に落とし込む
新しい切り口を見つけるためには、まず本質を自分の腹に落とし込むことです。
この答えが出たのは、多分、僕が一番、「セクスィー部長の何が面白いのか」ということについて長く考えていたからだと思います。音楽を担当する方は、どうしても画面に出ているものだけを見て考えてしまいます。だから、表層的な捉え方になりがちです。でも、これは、切ってるんじゃなくて、塗っているだけなんですね。
切り口っていうくらいだから、切らないといけないんです。きちんと切ってるから、中が分かって、本質が見えてきます。そこでようやく、それをどう見せるか、ということが出てきます。本質が分からない限り、切り口って見えてきません。
なぜ、これが面白いのか。なぜ、これに力があるのか。なぜ、人がそれを必要とするのか。
突き詰めて本質を見つける。なぜ面白いのかを真剣に考える。
正直セクスィー部長のはじまりは、「セクスィー」と「部長」をかけあわせた面白さや語感です。でもそれには本質があるはずなんです。深く心を探っていくと「セクスィーはバンデラス(肉食男子)だ!」ってハマることがあるんですね。
とはいえ、実際には切り口なんて、ハマらないことも多い。切ったつもりが、本質とはまったく違うものを見せちゃったってこと、僕も多々あります。
そのときは思い出してください。努力より試す。失敗すれば、何でダメだったのかはわかります。そこから本質をつかむこともあります。
人は、好きな色は大抵一緒です。表面的にやっていると、同じことを繰り返します。違うように見えても、やっぱり同じ色を塗ってしまうんです。
自分から離れて本質を探っていこうとすると、「これは何だろう」と意識が対象物に向かうから、いつも自分ではないものに出会っていけるんです。
なお、この「切り口」は、最初は明確に見えていなくても良いと思います。最初は、「自分はこれがやりたい」というものを、しっかり持つ。作る段階になったら、そこから離れて、広い世界の中で、その面白さと向き合っていく。その立ち位置を使い分けていかないと、独りよがりなものができあがって、おかしなことになります。
今回のPOINT
本質を探る中で、「切り口」は見つかる
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