では、HSDPAはどうして高速なのか。基本的な仕組みはCDMA2000 1x EV-DOに似ている。ただし、EV-DOが専用の周波数幅(1.25MHz)を必要とするのに対し、HSDPAは、W-CDMAが現在利用している5MHz幅のキャリア(搬送波)を共用できるのが大きく違う。ちょうどEV-DVに近い。
それでは5つのポイントで見ていこう。
CDMA方式では、基地局からの送信電力のすべてが有効に使われているわけではない。端末の受信受信電力が一定になるように、端末との距離に応じて基地局からの送信電力を制御している。
しかしこのため基地局は送信電力に余裕をもつ必要があり、端末の配置によって利用する電力が変動するという問題があった。HSDPAでは、この余裕分を利用できる。
「残りのパワー(送信電力)をHSDPAが使うことで、基地局のフルパワーが使える」(藤岡氏)
これはW-CDMAが使っている周波数5MHz幅のキャリア(搬送波)の中に、W-CDMAとHSDPAが混在できることも指す。別のキャリアが必要なEV-DOとは違い、HSDPAは1つのキャリアを柔軟に利用できるわけだ。
これはちょうどCDMA2000 1xのEV-DVと同様の技術となる(2001年7月30日の記事参照)。ただし「EV-DVは、まだ商用化のめどは立っていない」(藤岡氏)。
HSDPAはソフトコンバイニング(足し合わせ)を使ったハイブリッドARQをエラー訂正に用いる。これは、通信データにエラーが起こったら、端末側でエラーデータを覚えておき、再送されてきたデータと組み合わせて正しいデータを生成するというものだ。
W-CDMAでは、1つの符号を1人のユーザーに割り当てる。HSDPAでは「複数の符号を複数のユーザーに割り当てる。つまり特定の間、1ユーザーが複数のコード(符号)を利用できる。これによって高ビットレートを確保できる」(藤岡氏)。
最大で15個の符号が利用可能だが、「(端末が)すべてのコードを受けられるようにすると、回路的に大変」(藤岡氏)なため、当初の端末向けチップでは扱う符号数を限定するものが多い。HSDPAにはそれぞれ速度の異なる12個のカテゴリーがあるが、例えばカテゴリー7/8は10個の符号に対応するが、カテゴリー9/10は15個の符号に対応する(下表参照)。
デジタル変調方式の種類として、HSDPAは16QAMを利用できる。現行のW-CDMAが使うQPSKに比べて、1シンボルあたり4ビットとなり、2倍の情報を送信できる。
ただし16QAMはフェージング(受信者の移動などによって電波の強さが変化する現象)に弱いため、HSDPAでも電波条件が悪い場合はQPSKを利用する。
どの変調を利用できるかも、カテゴリーによって異なる(下表参照)。
通信を行うブロックの大きさ──Trasmission Time Interval(TTI)がHSDPAでは短くなっている。W-CDMAは10〜20ミリ秒だったのに対し、HSDPAは2ミリ秒だ。
2ミリ秒ごとに端末が基地局に電波状況などを報告し、環境に適した方式で転送を行うため、全体として通信速度が高速になる。
「2ミリ秒単位で伝送し、2ミリ秒ごとに各ユーザーが使うコードを割り振るなど柔軟なシステム」(藤岡氏)
もっとも、端末側は処理頻度が高くなるため負担が大きい。そのため「2ミリ秒のTTIを連続で受けるのではなく、間欠で受ける場合もある」(藤岡氏)。下記表の「Inter-TTI」の数字が間欠受信のタイミング。1ならば1つおきに、3ならば3つおきに受信する。
この2ミリ秒単位で、TTIを各ユーザーにうまく割り当てる「スケジューリング」も行われる。ユーザー1の電波状態がいいときにはユーザー1に、ユーザー2の電波状態が良いときにはユーザー2へと、柔軟に割り当てを変更する。
「フェージングをうまく利用して、上手に時間を配分する。これによって基地局当たりで、うまくパフォーマンスが上がるようにする」(藤岡氏)
Category | Codes | Inter-TTI | TB size | Total # of soft Bits | Modulation | Data rate |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 5 | 3 | 7300 | 19200 | QPSK/16QAM | 1.2 Mbps |
2 | 5 | 3 | 7300 | 28800 | QPSK/16QAM | 1.2 Mbps |
3 | 5 | 2 | 7300 | 28800 | QPSK/16QAM | 1.8 Mbps |
4 | 5 | 2 | 7300 | 38400 | QPSK/16QAM | 1.8 Mbps |
5 | 5 | 1 | 7300 | 57600 | QPSK/16QAM | 3.6 Mbps |
6 | 5 | 1 | 7300 | 67200 | QPSK/16QAM | 3.6 Mbps |
7 | 10 | 1 | 14600 | 115200 | QPSK/16QAM | 7.2 Mbps |
8 | 10 | 1 | 14600 | 134400 | QPSK/16QAM | 7.2 Mbps |
9 | 15 | 1 | 20432 | 172800 | QPSK/16QAM | 10.2 Mbps |
10 | 15 | 1 | 28776 | 172800 | QPSK/16QAM | 14.4 Mbps |
11 | 5 | 2 | 3650 | 14400 | QPSK only | 0.9 Mbps |
12 | 5 | 1 | 3650 | 28800 | QPSK only | 1.8 Mbps |
HSDPAは、基本的に下り方向のみの高速化通信方式だが、俗にHSUPA(High-Speed Uplink Packet Access)と呼ばれる上り方向の高速化にも着手されている。
TTIを2ミリ秒とするオプションが導入され、スケジューリングやハイブリッドARQも導入し、上り最大5Mbpsを実現する。
3GPPのRelease.6で導入予定で、Ericssonでは現在試験中。2006年には商用化の見通しとなっている。
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