イー・アクセスが「ポイズンピル」を導入した理由

» 2005年05月12日 19時13分 公開
[杉浦正武,ITmedia]

 イー・アクセスは5月12日、2005年3月期の決算説明会を開催した。会場では、同社が企業買収対策の性格を持つ新株予約権、いわゆる“ポイズンピル”(毒薬条項)の導入を発表。その狙いを説明した。

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 同社の業績は順調に推移している。2005年3月期は、増収増益を達成。売上高は前年同期比52%増となる579.1億円を達成、営業利益として同125%増となる93.1億円を計上した。当期純利益も93.5億円で、これは前年同期比296%増と「4倍増」を実現している。

 今後は、千本倖生会長兼CEOが「残された最後のリゾート」と話す携帯市場に参入を目指す。同社の見込みでは、6月にも総務省が1.7GHz帯の免許方針案を発表。7月にこの方針が決定になり、8〜9月には免許受付が始まる。この免許取得を、同社の最優先事項にするという。

既存株主に向けた新株予約権の交付

 同社は会場で、企業買収に備えポイズンピルを導入することも発表した。千本社長はその手法を「日本の環境では、おそらく最適であろうプランだ」と自賛する。

 同社のポイズンピルは、「信託型新株予約権」。具体的には、一般株主に新株予約権を発行するという手法をとる。

 買収を仕掛けられてから、慌てて防衛策として第三者割り当て増資を行うと、買収者の持ち株比率が下がるのと引き換えに既存株主の持ち株比率も下がる。これは既存株主にとって“迷惑”な話となる。

 そうではなく、新株予約権を前もって一般株主に発行しておく。これにより、買収をしかけられた際にポイズンピルが発動し、新株予約権が株主に交付される。既存株主が株を買い増してくれれば、自動的に買収者の持ち株比率が下がるしかけだ。

 ポイズンピルを発動するかどうかは、社外取締役で構成される「企業価値向上検討委員会」が決める。千本氏は、この“社外取締役で構成される”――というところがポイントなのだと強調する。

 「濫用的な買収から、株主をきちっと守る。『経営陣を守る』のが目的ではない。社内取締役(で構成された委員会)は“社長に任命されたから、社長副社長を守る”という意識になってしまう」

 社外取締役なら、株主の利益のために働くという意識を徹底できる。買収も、それが結果的に企業価値を高め「株主のためになる」と判断したら「それはやったほうがいい」と千本氏。その場合は、ポイズンピルが発動しないことになる。

 「フジテレビにしても、既存経営者を守るための企業防衛という、世界から見たらとんでもないことをやっている」(千本氏)

 イー・アクセスは、上記のような株主優先の理念、コーポレートガバナンスを徹底していると胸を張る。同社の10人の取締役のうち、社内取締役は会長の千本会長兼CEO、種野晴夫社長、エリック・ガンCFOの3人しかいない(5月17日の記事参照)。ほかの7人は、国内外から呼び寄せた社外取締役となっている。

Photo イー・アクセスの社外取締役の顔ぶれ。国籍も、専門分野も異なる7人の社外取締役が揃う

ライブドア対策か?

 今回のポイズンピル導入の影に、ライブドアが引き起こした買収劇の影響をみる業界関係者も多い。ライブドアは和解後、フジテレビから増資引き受けなどで1473億円の支払いを引き出している。この資金を、次なる買収に充てるものと見られている。

 イー・アクセスの資産総額は1349億9000万円で、時価総額は980億円程度。累積損失も一掃し、黒字基調になっている優良企業だ。株式の上場に伴い、市場での株式の流動性も高まっている。

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 ポイズンピル導入は、ライブドアによる買収をおそれたためか。会場ではそんな勘ぐりを投げかける報道陣も多かったが、イー・アクセスのエリック・ガンCFOは苦笑しつつこれを否定する。

 「今回の新株予約権導入は、2年前から検討していたこと。ライブドア騒動で慌てて決めたことではない」

 エリック氏は、連日の報道で日本の買収に対する規制の状況などが明らかになったとも付け加える。「不透明なところがクリアになった。(報道が)導入にあたりメリットだった」と話した。

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