クルマが求めるワイヤレス通信とは?──トヨタ自動車キーマンが語るワイヤレス業界のこれから(2/4 ページ)

» 2005年07月11日 20時50分 公開
[神尾寿,ITmedia]

「安全」「環境」のための通信技術

ITmedia クルマの場合、「安全」は非常に重要なテーマであり、自動車メーカーに求められる社会的ニーズでもあります。安全分野における通信が果たす役割というのは、どういったものがあるのでしょうか。

大西 現在は、(トヨタの)テレマティクスサービス「G-BOOK ALPHA」がGPS位置情報付き緊急通報サービスを標準機能とするなど、安全分野にも積極的に取り組んでいます。ミリ波レーダーを使った(事故直前衝撃軽減システム)プリクラッシュセーフティも、外界の情報をセンサーで得るという点でワイヤレス通信技術の安全分野での応用ですね。

ITmedia 事故直前、事故後のステージにおけるワイヤレス通信の活用ですね。特にASV分野のプリクラッシュセーフティは画期的なシステムです。

大西 今後の部分で言いますと、交差点や信号の情報を通信インフラを使って取得し、(ASVの)クルマ側センサーだけでは取り得ない情報を安全に生かす「AHS(Advanced Cruise-Assist Highway Systems : 安全支援道路システム)」領域の実現が大きなテーマです。ここにはクルマ専用のワイヤレスブロードバンド通信インフラが必要だと考えています。

ITmedia ASVは自立系ですから、自動車メーカーの取り組み次第で進化していきます。一方でAHSはインフラとの協調ですので、実現に時間がかかるのではないでしょうか。

大西 そうですね。例えば周波数割り当ての点だけ見ても、日本ではITSなどクルマ向けの利用を強く想定した状態にはなっていません。我々(自動車産業)としては交通安全のための周波数割り当て・再編を総務省に求めているのですが、それが実ったとしても、2020年頃かそれ以降を見据えた取り組みになっていくと認識しています。

ITmedia クルマ専用の周波数としては5.8GHz帯のDSRCがあり、安全分野での応用研究が進んでいますが、"DSRCだけ"ではAHS実現には厳しいのでしょうか。

大西 今ある通信方式、周波数帯としてはDSRCは優れていると思いますが、AHSの(フルサービス)実現を考えると、ワイヤレスブロードバンド通信インフラが必要です。

ITmedia クルマ同士が通信をする車車間通信分野の可能性はいかがでしょうか。

大西 クルマ同士が接続するという点で、(道路インフラと協調する)路車間通信よりは難易度が高いでしょう。しかし、道路インフラの発展を待てない場合には、情報のクオリティの課題はありますけれども、有効な手段のひとつであると考えています。

ITmedia クルマ側対応だけならば、自動車メーカーの取り組み次第で実装が進められますからね。

大西 特にトヨタの場合、国内の市場シェアが4割ありますので、トヨタ車だけでもプローブ情報※の共有を行えば一定の効果はあるでしょう。

※プローブ……車載のセンサで集めた情報を通信を使って送信し、サーバー上で情報収集し、コンテンツ化すること。渋滞情報などのモニタリングに利用する。

ITmedia あと車車間通信やプローブなどの場合、道路インフラの情報化を必要としないので、グローバル戦略では有利ですね。日本は道路関連予算が大きいのでVICSなど「道路の高知能化」が進んでいますが、各国市場から見れば、むしろ日本市場の方が特殊です。

大西 そうですね。例えば北米を見ても、国土が広大ですから、道路センサー網を完全に構築するのは時間とコストがかかります。でから北米の自動車メーカーはASVなど自立系安全技術の確立に熱心で、その反面、インフラ協調型の普及には時間がかかると見ています。

 しかし、一方で忘れてはならないのが、道路上のセンサーから情報を取得するインフラ協調型の方が、クルマから見通せない場所の情報が手に入り、さらに(高価なセンサーユニットを必要としない分)クルマ側のコスト負担が軽いということです。日本のように道路の高知能化が進んでいる国ならば、それを使わせていただかない手はないとも考えています。

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