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» 2005年07月15日 15時10分 公開

日本の“音声通話”、利用率向上は可能か(前編)神尾寿の時事日想

欧米と比べ、音声通話利用率が低下している日本。筆者が考える理由の1つは、ある地理的・歴史的特徴によるものだ。

[神尾寿,ITmedia]

 7月13日から開催されているワイヤレスジャパン2005(特集参照)の記事が続々と掲載されている。基調講演のレポートも数多く掲載されているが、その中でも面白かったのがボーダフォンの津田志郎会長のレポートだ(参考記事12)。

 刺激的でユニークな講演だったようだが、その中で筆者が面白いと思ったのが、音声通話利用率「MOU」の各国比較だ。津田会長は日本のMOUが低下している点を欧米、特に米国と比較し、日本の通話利用率向上に「もっと知恵を働かせるべき」と述べている。

徒歩と馬車という距離感の違い

 日本のMOUは低下している。その理由は諸説あるが、筆者が影響が大きいと考える要素は2つある。今日はそのうちの1つ、「モビリティの違い」をテーマにしたい。

 日本は人口の都市偏重、地方の空洞化が急速に進むという点で、世界でも顕著な国である。これは移動手段にも影響している。東京・大阪など大都市圏では公共交通と自家用車の利用比率は6:4であり、電車利用率がずば抜けて高い。一方、世界的な平均は3:7程度だ。欧米も一部の大都市を除けば、移動手段の基本は「クルマ」である。

 これは国土交通の構造や考え方が、日本と欧米では異なるためだろう。

 寺井精英の著書「インテリジェント日本の創造」によると、江戸時代に「徒歩移動」を前提に開発された日本の都市構造は、1日の旅程30〜40Kmごとに宿場町が配置されるように「人家はダラダラと続く」構造になっている。

 一方で、ローマ時代からナポレオン時代にかけての初期国土開発段階において「馬車での移動」を前提にした欧州では1日の旅程が160Km〜600Km。都市と都市、人家同士の距離感が、日本と欧米ではまったく違うという。かつての馬車が、今ではクルマになっているというわけだ。

 公共交通の利用が活発な大都市では、メールの方がコミュニケーション手段として都合がいい。特に日本では電車内での電話利用マナーが徹底されているので、事実上「通話はできない」からだ。電車内なら両手が空いているので、メールを使うことはできる。

 一方、自家用車での移動が中心ならば、音声通話のニーズがメールに浸食される部分が少なくなる。特に欧米はドライバー1人が1台のクルマを運転し、移動する利用シーンが多い。ハンドルを握りながらメールは使えないので、おのずと移動時のコミュニケーションの主体は通話になる。欧米を中心にイヤホンマイクやBluetoothヘッドセットの普及が急速に進んだ背景には、クルマ移動の影響があるだろう。

 さて、モビリティの違いで考えたとき、日本の「音声通話」向上としてできる事は何だろうか。

 筆者は地方に目を向けることだと考えている。周知の通り、地方の移動手段は、東京・大阪圏の大都市部と逆転し、「鉄道・バスなど公共交通機関と自動車移動の比率は3:7程度」(森川高行・名古屋大学教授)になる。運転中の携帯電話利用はしない方がいいのは当然だが、生活・仕事における必要性は都市圏在住者よりも高いからだ。

 まずMOUをこれ以上下げないために、地方在住者のドライバー向けに、Bluetooth携帯電話とハンズフリーフォンやヘッドセットのソリューションを積極的に提供することが必要だ。安全で正しい使い方をキャリアショップと自動車ディーラー/用品店が協力してドライバーに伝えていく必要もあるだろう。

 さらに今後の点では、クルマ移動の多い地方ユーザーの声を取り入れながら、使いやすいドライブモードサービスや、法人向けの音声ソリューションサービスを開発する必要もある。特に地方ビジネスの効率化・生産性向上を図るためのソリューションとしては、音声とデータサービスのハイブリッドな活用が重要である。これらの複合的な取り組みは、MOUの底上げに役立つはずだ。

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