ANAはマイレージプログラム強化のために、Edyを採用した。だが、その開始当初からおサイフケータイで実現できる、電子マネー以外のサービスにも注目していたという。
「(2003年)当時すでにJR東日本のSuicaが稼働していましたから、チェックインでのFeliCa活用は当然視野に入れていました。当社では以前からインターネット予約・決済とクレジットカードの磁気ストライプ情報を使ったチェックインサービスを行っていたのですが、携帯電話では2次元コードとFeliCaでさらにスムーズなチェックインを目指しています」(北沢氏)
携帯電話の活用で、特に注力したのが、搭乗前手続きの「事前化」だという。飛行機の搭乗では、これまでチェックイン時に座席の確定などを行っていたが、インターネットもしくは携帯電話を使うスマートeチェックインでは空港に着く前にそれらの作業を終わらせることができる(2004年9月8日の記事参照)。
「席を決めずに自動チェックイン機をご利用していただいた場合、発券終了まで平均して40秒〜50秒くらいの時間がかかります。一方、スマートeチェックインを事前にしておけば、自動チェックイン機での発券時間は平均8秒程度です。羽田空港のようにお客様の多い空港で、特に混雑時には(時間短縮による混雑)緩和効果がある」(鈴木氏)
ANAのスマートeチェックインサービスは、国際線は昨年7月、国内線は同年12月から開始している。現在の利用率は「羽田空港で全搭乗者の1割程度」(北沢氏)だという。ライバルのJALは航空券を発行せず、おサイフケータイで搭乗までできるサービスを実現しているが、ANAでは「空港スタッフがお客様の搭乗券を拝見するなど、オペレーションとして航空券があった方がいい」(鈴木氏)という考えから、おサイフケータイ利用でも空港で発券する仕組みを取っている。
「ANAでは1999年からiモード向けのサービスを開始しており、予約と購入まで携帯電話サイトで出来るようにしていました。おサイフケータイが登場したことで、航空券の発券手続きのスムーズ化や、Edy=マイル連携まで携帯電話の中で循環するようになる。ここがおサイフケータイ対応を積極的に行う狙いです」(鈴木氏)
ANAでは現在、航空券のネット予約サービスに力を入れているが、個人利用者の「細かい数字は言えないが、2桁パーセントのお客様がすでに携帯電話からの予約購入を利用している」(鈴木氏)状況だ。
ANAはおサイフケータイ対応も積極的に行ってきた。NTTドコモのサービス開始時はもちろん、auとボーダフォンもサービス開始と同時にAMC(ANAマイレージクラブ)アプリを提供している(10月29日の記事参照)。AMCアプリは、FeliCa端末でのみ利用できる専用アプリだ。
「対応キャリアの考え方としては、我々がお客様に選んでいただく立場であることから、おサイフケータイ対応については基本的に各キャリア均等のスタンスで臨んでいます」(鈴木氏)
現在、ANAマイレージクラブの全会員に占めるAMCアプリ利用者の比率は、おサイフケータイが普及の途上であることもあり、まだ少ない。だが、利用者のプロフィールについては、「カード型に比べてAMCアプリ利用者の平均年齢はマイナス5歳。20代〜30代が中心です。また、全体からの比率で見ると意外と女性層のAMCアプリ利用が多い」(鈴木氏)という特長があるという。
おサイフケータイ向けのAMCアプリはANAマイレージクラブカードのサブカードという位置づけであり、おサイフケータイ内のEdyアプリのID情報とリンクする形を取っている。AMCアプリの部分は各キャリア共通だ。しかし、その一方で、「トルカ」のようにドコモ専用の新サービスも積極的に活用している。
「トルカは現在、羽田空港の第2ターミナルビルで利用しています。具体的には羽田空港内の店舗で利用できるクーポンの配信という使い方です。ただトルカ非対応のお客様の対応もしなければならないので、クーポン配信自体はHTML版も用意しています。トルカ対応の902iのユーザーならば、より便利に利用できるという形ですね。最新技術の取り込みについては今後も積極的にやっていく考えです」(鈴木氏)
だが、今後のおサイフケータイ向けの取り組みとして、悩ましい分野もある。クレジットサービスの対応だ。ANAは汎用ハウスカードとして三井住友VISA、JCB、MASTER、ダイナースなど複数のクレジットカード会社と提携してラインナップを揃えている。しかし、おサイフケータイは決済機能のアプリと、AMCアプリのような各事業者のCRM機能のアプリが分離するケースが大半だ。
「おサイフケータイの中に各クレジット会社のアプリが入り、それとAMCアプリが連携する形になるのか、それともAMCアプリの中にクレジット機能を取り込むのか。(ANAのハウスカードの対応は)今後、おサイフケータイ向けのクレジットサービスがどのような流れになるのかを見ながら、検討していかなければならない部分ですね」(鈴木氏)
ANAでは来年も引き続き、Edyとおサイフケータイの利用促進をしながら、積極的に提携先を増やしていくという。JR東日本との提携ではJALが一歩リードしたが、「(JALと提携している)だからといって、JR東日本とは手が組めないというわけではない。経済条件さえあれば、鉄道やバスなど様々な公共交通機関と提携したい」(北沢氏)と、提携先拡大に前向きだ。
「最終的には、おサイフケータイの中に様々なサービスがまとまってくる。この中でAMCアプリとの連携を増やしていき、街を青色に染めたい」(北沢氏)
大空をめぐる航空業界の競争は、FeliCaカードとおサイフケータイを媒介にして、地上でも激しくなっていきそうだ。
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