ドコモ九州長崎支店の「おサイフケータイ普及戦略」 特集:FeliCa携帯、本格始動(2/2 ページ)

» 2005年12月28日 12時48分 公開
[神尾寿,ITmedia]
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おサイフケータイ全機種対応へのこだわり

 長崎支店が幸運だったのは、長崎県バス協会がすでにFeliCaカードによる電子乗車券システムを導入していたことだ。バスや窓口にリーダー/ライターが整備されていたため、ハードウェアの新規導入から促す必要はなかった。

 「おサイフケータイ対応で、既存ソフトウェアの改修は必要でしたが、その点は初期事例ということで小田原機器やフェリカネットワークスの協力を取り付けられました。その上で、我々が導入可能かどうかの技術検証をして長崎県バス協会におサイフケータイ対応を働きかけました」(首藤氏)

 通常、こういったシステム改修に伴う技術検証は導入事業者側の作業であるが(12月3日の記事参照)、ドコモ九州ではこの部分を全面的にサポート。また、おサイフケータイ対応で生じるサイト運営のノウハウ提供なども行い、長崎県バス協会側の開発費負担の圧縮に貢献したという。

 「その際に重視したのが、既存のおサイフケータイ全機種に対応させるということです。これはバス協会側の希望でもありました。お客様にしてみれば、同じおサイフケータイなのに対応・非対応が分かれるというのはわかりにくいですからね」(首藤氏)

 しかし、全機種対応についてはオペレーション面での課題があった。例えば、カード型を想定していた窓口端末では、機種によってリーダーライターに置く向きを変える必要があるなど、全機種対応で生じる運用面でのノウハウが必要になった。こういった検証情報はドコモ側が整理・マニュアル化して、バス会社に提供しているという。

 また、もうひとつ注目ポイントとして、movaのおサイフケータイ「506iCシリーズ」も今回、対応している点がある。すでに長崎市内ではFOMAエリアが充実し、FOMAユーザーの獲得が順調に進んでいるが、「FOMAは海上エリアが弱いので、離島部や釣りやマリンスポーツをされるお客様には(movaの)ニーズがある」(首藤氏)。FOMAの海上エリア拡大は今後取り組んでいくというが、それまでは販売済みの506iCシリーズでも利用できる点は強みになりそうだ。

おサイフケータイ対応は「ドコモダケ」で先行者利益を得る

 技術協力をする一方で、長崎支店はサービス開始にあわせて各バス会社への広告出稿にも力を入れた。その顕著な例が、乗車口のリーダーライターの上に大きく貼られた「ドコモダケ」のステッカーだ。これはすべての対応バスに貼られている。

バス乗車口のリーダーライターには、ドコモ九州長崎支店が用意した「おサイフケータイ利用可能」のステッカーが貼られている。そこにいるのは、お馴染み「ドコモダケ」。実際にサービスが利用できるのも、当面は“ドコモだけ”

 「リーダーライターへのステッカー広告は、かなりの広告効果があると見込んでいます。毎日目にする場所ですし、バスに乗るたびに『ケータイでバスに乗れるのはドコモだけ』と訴えるわけですからね」(首藤氏)

 日常的に目につく場所でおサイフケータイを訴求することで、「あくまで支店の販売目標であるが、おサイフケータイの(販売)1割増をあげている」。また、もうひとつ首藤氏が重視するのは、通学でバスを利用する学生層のチャーンインだ。

 「今回、通学定期券もおサイフケータイに対応していますから、携帯電話とスマートカードを両方持つ高校生などには訴求しやすいサービスだと考えています。新入学シーズンは数が動きますから、当面はモバイル長崎スマートカードに対応しないauやボーダフォンユーザーの獲得を狙っていきます。特にauには負けたくない(笑)」(首藤氏)

 首都圏や全国区の主要サービスでは、おサイフケータイ対応でキャリアによる差はあまりない。しかし、モバイル長崎スマートカードや、松山のモバイルい〜カードなど、地方の案件ではドコモの地域会社や支店が積極的に関わることで、おサイフケータイ対応のスピードでキャリア格差が生まれている。地方のドコモ支店にとって、このタイムラグは格好の販促ツールになるようだ。

公共交通を足がかりに「地域のおサイフケータイ対応」を促す

 モバイル長崎スマートカードは、多くのユーザーにおサイフケータイを使ってもらう、長崎で初めての大型案件になった。長崎支店では、この公共交通での採用を足がかりに、今後は長崎地域でのおサイフケータイ対応事業者の開拓に注力していきたいという。

 「(今後の点で)特に重視しているのが、ドコモオリジナルの『iD』(11月8日の記事参照)の普及推進です。バスの対応でおサイフケータイへの注目は集めましたから、今後はiDの加盟店を積極的に増やしていく。これまでも商店街などに電子マネーの採用を働きかけてきましたが、『電子マネーよりもクレジットサービスの方が欲しい』とおっしゃるわけですね。お客様にプリチャージを理解してもらうのが大変なのと、商店街はいろいろなお店がありますから、高額決済にも対応している方がいいという声が多かった。(長崎支店としては)今後、公共交通のモバイル長崎スマートカードとiDを1台のおサイフケータイで使うという姿を積極的に訴求していきたい」(首藤氏)

 従来の携帯電話コンテンツと異なり、リアル社会と連携するおサイフケータイは、“東京発の全国均一サービス”にはならない。公共交通はもちろん、小売店も大規模チェーンの進出が著しいといっても、まだまだ地場企業の力は大きい。ドコモ九州長崎支店のように、地域レベルでの「市場創出」と「地元ユーザーへの訴求」の取り組みは、おサイフケータイの普及において極めて重要だと言えそうだ。

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