QUICPayで少額決済市場が大きく変わる――JCBの戦略(前編) Interview: (1/2 ページ)

» 2006年02月23日 09時28分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 2006年は、おサイフケータイのクレジット決済サービスが大きく躍進する年になりそうである。現在、この分野はJCBの「QUICPay」(2月2日の記事参照)、UFJニコスの「スマートプラス」、三井住友カード・NTTドコモの「iD」があり、それぞれ市場拡大に努めている。JCBとUFJニコスは全キャリアのおサイフケータイ対応を終え(2月13日の記事参照)、利用可能なユーザーも着実に増えつつある。

 今日の時事日想は特別編として、ジェーシービー開発本部QUICPay推進プロジェクト営業推進グループの吉田敦史氏と、同開発本部QUICPay推進プロジェクト事務局の青木直人氏にインタビューする。おサイフケータイ向けクレジットサービスの草分けであるJCBに、QUICPayのこれまでと、今後の展望を聞いていく。

ジェーシービー開発本部QUICPay推進プロジェクト営業推進グループの吉田敦史氏と、同開発本部QUICPay推進プロジェクト事務局の青木直人氏

おサイフケータイより古いQUICPayの歴史

 QUICPayはおサイフケータイ向けクレジット決済サービスの草分けであり、この分野の代表的なサービスになっているが、スタートはカード型からだ。JCBにとって非接触IC分野全般の取り組みであり、おサイフケータイ対応はその中の主要な1つである。

 「現在、クレジットカード業界全体の総発行枚数は2億枚、そのうちJCBが発行するカードは(提携カードも含めて)5414万枚あります。このようにカードの発行枚数においては、かなり普及しているわけですが、少額決済分野での利用が促せていない。少額決済で『使える場所がない』わけではなく、スーパーマーケットやタクシーなど利用可能な場所はたくさんあるのです。それでも使われないのは、消費者の持つ『クレジットカードは高額決済で使うもの』というイメージが影響していると考えています」(青木氏)

 少額決済でのクレジット決済利用における消費者の心理的な障壁をなくす。そこでJCBが注目したのが、JR東日本が取り組んでいたICカード出改札システム、現在の「Suica」である。

 「当時、JR東日本が採用することによって非接触ICを使ったサービスが普及すると見て、何とかこれを少額決済分野の商品として使えないかと考えました。そこで我々は、1999年にお台場にある(東京・お台場にある、トヨタ自動車のアミューズメント施設)『メガウェブ』において、FeliCa技術を使ったポストペイ方式およびプリペイド方式の決済システムを導入しました。当時はQUICPayという名前はありませんでしたが、これがJCBの非接触ICサービスの始まりになります」(青木氏)

 メガウェブの例は商用化の先行事例だが、実はJCBではそれ以前からFeliCaを使った職域向けクレジットカード連動ポストペイサービスを開発しており、これがQUICPayのベースとなった。FeliCaチップを埋め込んだ社員証を発行、JCBカードの子カードとして、社内食堂などでキャッシュレス決済できるシステムで、入退室管理や勤怠管理、ネットワーク認証などの機能と連動できるオフィス向けパッケージだ。こちらも「Offica(オフィカ)」(2003年12月15日の記事参照)という名称で2003年に商品化されている。

JCB社内に設置されている自動販売機。現金とOfficaでの購入が可能

 このようにJCBは、1999年以前の段階から非接触IC「FeliCa」のクレジット決済分野での利用と少額決済市場の開拓を考えており、その歴史はおサイフケータイよりも古い。クレジットカード業界全体で見れば、当初は接触IC型カードの普及に重点が置かれており、非接触IC分野でも日本独自のFeliCaが注目されたのは最近のことである。JCBはなぜ、1999年当時からFeliCaに着目していたのだろうか。

 「我々としても、クレジットカードのセキュリティは重要視しています。これだけなら接触IC型だけでまかなえるわけですが、さらに利便性を追求し、少額決済分野を開拓したかった。セキュリティと利便性のバランスを考えた時、(1999年段階で)非接触ICもやろう、という判断になりました」(吉田氏)

 むろん、世界規模で見れば欧州を中心に接触IC型カードの対応が進んでいる。JCBは国際ブランドであり、接触ICカードへの切り替えは積極的に行っている。JCBの発行済みカードの約8割が接触ICカードだ。しかし、接触ICの対応だけでは、国内の少額決済市場は開拓できない。接触ICと非接触ICは、国際性とセキュリティ、そして利便性でバランスよく共存していく関係にあるという。

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