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ワイヤレスブロードバンド技術は合理的な選択を――クアルコムジャパンに聞く (1/2)

昨年後半から脚光を浴びるようになったモバイルWiMAX(IEEE802.16e)。しかしこの流れに異議を唱えているのがクアルコムだ。その理由を山田社長にたずねた。
2006年03月10日 21時53分 更新

 低価格で大容量、そして常時接続。固定通信の世界がそうであったように、モバイルの世界にも「ブロードバンド」の波が訪れようとしている。この分野で使う技術としては、KDDI、NTTドコモ、ソフトバンクやイーモバイルなどがこぞって「モバイルWiMAX」の名をあげている。

 しかし、本当に「モバイルWiMAXありき」でいいのか。そう異論を唱えるのがクアルコムだ(1月19日の記事参照)

 今日と明日の時事日想は特別編として、クアルコムジャパン社長の山田純氏に、ワイヤレス(モバイル)ブロードバンド時代に向けた見解と、同社が推す802.20方式について聞いた。

ay_ymd.jpg クアルコムジャパン社長の山田純氏

クアルコムがモバイルWiMAXを疑問視する理由

 ワイヤレスブロードバンドという言葉は、昨年あたりからモバイル業界内で期待感を持って使われ始めている。その背景には技術的な進歩も当然あるが、総務省が2.5GHz帯の割り当てという“ニンジン”をぶら下げたことがキャリアの期待を強く刺激した(2005年11月11日の記事参照)。これによりワイヤレスブロードバンドは、ビジネスとしての具体性を帯びてきたのだ。

 しかし、山田氏はワイヤレスブロードバンドをビジネスとして考えるならば、その前提段階として経済合理性や定義を明確化することが必要だと話す。

 「まずエリアが限定的ではユーザーが受け入れませんし、これからのサービスならば『高速通信』、『低コスト』が必要になる。この際の技術選択のポイントは、高い周波数利用効率や優れたリンクバジェット(編注:くわしくは後述)、シームレスハンドオフなどの要素が“バランスよく実現されている”という点になります。

 これらの中で最も重要なのが、周波数利用効率です。これはエンドユーザーからは直接見えない部分であるのですけれど、キャリアにとっては収容できるユーザー数とサービス品質を決める鍵ですから、どういうビジネスが実現できるかにかかってくる。ワイヤレスブロードバンドサービスの経済性を決める、基本的な要素と言えるでしょう」(山田氏)

 モバイル通信のビジネスは、割り当てられた周波数をキャリアが「どれだけ上手にやりくりできるか」で料金とサービス品質が決まる。周波数利用効率が高いということは、他キャリアとの競争を有利に展開し、エンドユーザーに良質なサービスを提供する礎になる部分といってもいいだろう。

 クアルコムが度々、モバイルWiMAX技術に疑問を投げかけるのは、まさにこの「周波数利用効率」の点である。

 「(採用技術の)周波数利用効率がよくないと、(キャリアの)ビジネス的な選択肢が減りますし、エンドユーザーの皆様に『よいサービスを低価格で提供する』ことができません。我々としては次世代のワイヤレスブロードバンド技術を定義するにあたり、周波数利用効率として平均セクタースループットで『1bps/Hz/セクターを超えなければならない』と考えています。例えば、HSDPAやEV-DO Rev.Aですと、10MHzの周波数を下りのリンクで使えたと仮定すると10Mbitの平均セクタースループットが見込めますから、次世代の条件はクリアーしていると言えます。

 ところが、我々の試算ですと、モバイルWiMAXはこの条件(1bps/Hz/セクター)を超えていない。ある帯域幅をフルで使える(試験)段階はいいのですが、実際の商用化で多くのユーザーを収容するとしたら、十分なスループットをお客様に提供できないのではないか。ここが我々がモバイルWiMAXに懐疑的な理由のひとつです」(山田氏)

ay_yamada01.gif クアルコムの試算によると、モバイルWiMAXの平均セクタースループットは1bps/Hz/セクターを超えない(資料提供:クアルコムジャパン)

 クアルコム側の試算が正しければ、モバイルWiMAXは同社が推す802.20方式はもちろんのこと、今後の第3世代携帯電話で広く採用されるHSDPAやEV-DO Rev.Aよりも非効率ということになる。3G用途とワイヤレスブロードバンド向けでは割り当てられる帯域幅やサービス内容が違うので一概に比較できないが、周波数利用効率はクルマの燃費性能のようなもので、キャリアのビジネスとエンドユーザーのコストパフォーマンスにダイレクトに影響する。ワイヤレスブロードバンド市場の発展性のためにも、精査が必要だろう。

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