ソフトバンクの決算説明会場で、孫正義社長が繰り返した言葉がある。「携帯電話事業は、一歩一歩着実に進める」という表現がそれだ。
背景には、ソフトバンクが5年ぶりに連結営業利益で黒字化を達成したことがある(11月10日の記事参照)。これからは投資を回収する時期であり、新たに過激な“攻め”の投資は行わない。孫氏はそう思い定めたようだ。
孫氏は記者会見の冒頭、「2つのいいことがあった」と話した。1つは携帯事業者免許の取得。これは念願のものだと孫氏は顔をほころばせる。もう1つは前述のとおり、営業利益が黒字化に転じたことだ。
移動体通信の市場規模を、孫氏は“寡占市場だった”と断じる。「8.5兆円の利益を、3社で分け合っている。一方で、固定ブロードバンドの市場は7600億円の売上に、495社以上がひしめきあっていた。利益で見ると、もっと笑ってしまうぐらいの差がある」。移動体通信は1.3兆円の営業利益を3社で分け合っている状態であり、ソフトバンクは「『利益プライベートクラブ』のようなところに参入できたことになる」。
孫氏はまた、携帯の市場規模はまだまだ拡大するはずだとも話す。かつてADSL参入のときも「ソフトバンクは価格破壊だ、市場は縮小する」と批判されながら結果的には市場を拡大に導いたと主張し、携帯も同様のことが起こるという。「国内の携帯契約者数は9000万加入程度。だが海外では、海外などでは携帯契約数が人口比で100%を超えている国もある。ビジネス用などに、日本も1人が複数台持つ時代になる」
ここまで意気軒昂に話した孫氏だが、ただし、と付け加える。「我々は一気呵成にではなく、着実に携帯事業に取り組む。(ADSL事業のときのように)無茶をして設備投資をして、先行赤字を出さない」。基地局インフラはどのようなスケジュールで敷設するのか、との問いにも、「1年2年で無理をしてわーっと立ち上げると、高いコストがかかる。それほど無理をして追い込むようなことはしないでいいのではないか」とコメントする。
ADSL事業では惜しみなくつぎ込んだ顧客獲得コストにしても、携帯事業では「最初は小さく、一歩一歩育てる」と話すなど、慎重な姿勢が見える。「(ソフトバンクグループには)個人市場で913万回線、法人市場で158万回線の顧客基盤がある。これを“基礎票”として、携帯サービスをパッケージとして提供すればいい。ゼロから積み上げるのでないため、顧客獲得コストはそれほどかからないはず」
孫氏の口ぶりからは随所に、「2つのいいこと」のうちのもう1つである事業黒字化を壊したくない、という意図が見え隠れする。実際、6月22日に開催された株主総会でも「先行投資ばかりで、いつになったら黒字化するのか」と株主から詰め寄られる一幕があった(6月23日の記事参照)。株主の意図をくんで、孫氏は自らにブレーキをかけているのかもしれない。
孫氏は会場で、携帯事業の具体的な内容にあまり触れなかった。「重大な企業秘密」だとして、詳細を問う質問をことごとくかわした。サービス料金についても、「安いものもあれば、高いものも用意する。トヨタが軽自動車と高級車を提供するのと同じこと」と発言した程度だ。
ただ、ひとつ明らかになったこともある。同社がWiMAXに強い興味を示しており、12月には総務省に対して免許申請を行うということだ。「総務省が2.5GHz帯で、申請受付をするという認識でいる。ぜひ、WiMAXも認可をいただきたい」
ソフトバンクは既に、携帯とWiMAX、Wi-Fiをシームレスにハンドオーバーさせる実験に成功している(10月26日の記事参照)。孫氏はこれを「世界初の快挙」だと自賛した上で、この技術を新サービスにも適用すると話す。「せっかく技術がある。世界で最も進んだサービスを提供できる」と意気込んだ。
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